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暴走の速度上げる高市政権 支配構造の可視化が重要に

 高市政権が早くも深刻な行き詰まりを見せるなかで、2026年の新年を迎えました。大軍拡や社会保障削減、改憲など数々の暴走と対決し、政権を倒して政治を大本から変える1年をどうつくるか。政治学者として日本の政治を研究するとともに、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」でも活動してきた中野晃一さん(上智大学教授)に新春インタビューで聞きました。 (荒金哲編集長)

新春・編集長インタビュー
上智大学 中野 晃一さん

 ―高市政権の現状をどう見ていますか。
 自公連立のもとでの公明党は、右傾化のブレーキ役にはなっていませんでしたが、スローダウンする役割は比較的、果たしていました。たとえて言うなら、「重い燃料」です。燃料なので遠くまで進むことはできるけれど、重たいのでスピードは遅くなります。
 高市政権では、公明党という重い燃料がなくなって身軽になり、暴走のスピードが早くなっています。さらに閣外協力している維新の会のほか、国民民主党や参政党などが、政治を右に引っ張っています。燃料がいずれ尽きる可能性はあるものの、現状は、猛スピードで線路すらはみ出して右傾化を進めています。
 ―著書の『右傾化する日本政治』(2015年、岩波新書)では、政治の右傾化は、右に左に振れながら、次第に振り子の支点自体が右にずれていくと分析されています。
 10年前に安倍政権のもとで書いた本ですが、残念ながらこの分析は古くなっていません。
 高市政権で特に危険だと感じるのは、政権だけでなく政治システム全体が右傾化していることです。安倍政権当時に比べても、共産党や社民党などの議席数が減って力が弱まり、参政党をはじめ、右側の政党が勢いを増しています。立憲民主党内でも、それに合わせて、右側に移っていこうという動きが強まっています。

親台湾への警戒が
 ―首相の「台湾有事は存立危機事態」発言が深刻な影響を与えています。
 高市政権の大きな特徴は、「親台湾」です。
 高市氏自身が、首相就任前の2025年4月に台湾に行き、総督に会っています。政権の人事では、日華懇という台湾ロビーの議員連盟の会長の古屋圭司氏を選挙対策委員長に、議連幹事長の萩生田光一さんを党幹事長代行に、議連事務局長の木原稔さんを官房長官に据えました。官房副長官二人も、台湾に一緒に行ったメンバーです。
 石破政権では、党幹事長は日中議連の現会長である森山裕さんで、官房長官だった林芳正さんも会長経験者です。安倍政権と菅政権でも、自民党幹事長は日中議連会長だった二階俊博さんでした。
 いずれの政権でも、日中のパイプ役を担う人が要職にいたのに、高市政権の陣容は親台湾の人ばかりで、「台湾有事」発言の前から、中国側は警戒していたはずです。
 現状は、トランプ政権にとっても「行き過ぎ」だろうと思います。第二次トランプ政権は中国とのディール(取り引き)を目指しています。アメリカでは2026年11月に中間選挙があり、トランプ大統領からすれば、それまでに米中関係をよくしてディールを実現し、アメリカは再び偉大な国になったと訴えたい。にもかかわらず、高市首相が中国の逆鱗に触れ、撤回すらしない現状です。

NY選挙の教訓は
 ―そのアメリカのニューヨークでは民主的社会主義者のマムダニ氏が市長に当選しました。日本のリベラル勢力や革新勢力が学ぶべきことをどうとらえていますか。
 様々な条件の違いはありますが、若い世代など本来はリベラル左派勢力が支持を集めないといけない層にどう訴えるかという点では、参考になる部分が多いと思います。
 なかでも大事なのは、マムダニ氏が、民主社会主義者だと公言し、ガザの惨状をジェノサイド(集団殺害)と批判したり、ウォール街がニューヨークを牛耳っていると訴えるなど、自身の政治的な立ち位置をはっきり打ち出していることです。
 それは、大きな社会構造のゆがみを明確に指摘する、ということです。
 日本のリベラル左派は、私自身の自戒も込めて言うことですが、立憲主義を守れと訴えた結果、今ある政治制度を守ろうとする保守的な勢力だと、若い世代に誤解された面があります。
 いまの社会・経済構造にあるからくり、例えば、搾取だったり、特権的な勢力が政治を支配し人々の生活を苦しいままにしているおかしさを、明確に批判することに、もっと力を入れてよいのだと思います。特に、共産党とかマルクス主義は、本来はそれが得意なはずです。決して陰謀論ではなく、科学的な研究として支配のからくりを明らかにしてきたわけですから。
 同時に、それを伝えるうえでのマムダニ氏のうまさは、今風に言えば「エモく」、個人の体験や感情に訴えていることです。マクロの構造を、生活している個人のミクロの視点から糾弾し、こう変えていけるんだと訴えることで、メッセージの訴求力が大きく上がりました。しかもそれを、日常生活の場で人々と話し合うアナログでの伝達と、SNSでの伝達を組み合わせる戦略が成功しました。

左派の強さが必要

 ―2026年を、高市政権を倒し政治を変える年にするため、どんなたたかいが必要でしょうか。
 まずあるのは、一つの正解があるとは思わない方がよいということです。自分のやり方と違うからおかしいと論争するよりも、それぞれが得意なこと、やれることをやって、できるだけ幅広く連携し、連帯して、励まし合う方がよほど重要です。
 そのうえで、右傾化を止め、これ以上、政治が壊されるのを止めるには、私は、左派こそが強くならないといけないというのが持論です。左派がアンカー(碇)になり、左に引っ張る力を持たないと、「新しい中道」などといって、みんなが真ん中に寄れば、どんどん右に流れるだけですから。
 その意味で、左の勢力から、多くの人に届く言葉をどう紡ぐか。私は先ほど言ったように、よりストレートに構造的な問題を指摘し、一人一人が生活者としての視点から、何がおかしいか、どう変えていきたいのかを言語化し、可視化することではないかと思います。
 それは、より多くの人が「自分の声も政治に聞いてもらえる」と感じることにもつながります。
 これまでは「自分の声を聞いてくれる」のは、参政党なんだと思う人が、むしろ多くいました。外国人がたくさんいるから、自分の生活が苦しいんじゃないかとか、何となく思わされている人たちに、私たちの生活を苦しくしている構造的なからくりがあることを、それぞれの個人的なストーリーも交えながら伝えていく。それが「自分と同じ声を持っていたな」とか、「自分はこう思っていたけど、この人の声を聞くと、本当はこっちだったのか」という、説得力にもつながります。
 一人ひとりの視点から、社会の構造を問い、その声に基づいて政治を変えていくことこそ、まさにデモクラシー(民主主義)です。

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