世田谷区の祖師谷地域で長年、地域の住民に利用され、親しまれてきた地域循環バス「せたがやくるりん」が、今年4月から突然、大幅に減便されました。地域の足がなくなり、困った利用者と住民が、署名を集めて区に提出。区は、区内各地を走るバス事業者への支援の検討を表明しました。
守れ地域の足
公共交通クライシス

せたがやくるりんは、「祖師谷・成城地域循環路線」の愛称です。小田急線の成城学園駅前にある区の砧総合支所と、隣駅である祖師ヶ谷大蔵駅、祖師谷商店街をつなぎ、約1キロメートル四方の地域を循環します。
そのバスが4月、突然、大幅に減便されました。平日の便数は32から18にほぼ半減。高齢者が病院に通う時間帯の10時〜12時、買い物に行く人も利用する午後3時〜5時の便がなくなり、朝の便も6時台がなくなり、終便も午後9時だったのが7時半になり、塾通いの子どもなどが使えなくなりました。
同地域に暮らす道ど う家け暢よう子こさんは5月に、減便を元に戻すよう区が事業者に求めることを要望する署名を個人の名前でつくり、地域に配りました。「利用者だけでなく、商店や病院などからも、来客や予約が減ってしまったという話が聞こえてきた。みんなが困っている。何かせねばという思いでした」(道家さん)。
住民がつくった路線
せたがやくるりんが、本格運行を始めたのは2005年です。
同地域での街づくりの運動に長年、関わってきた根岸佐雄さんは、「小田急線の高架化が決まって、住民による街づくりの会が立ち上がったことがきっかけだった」と振り返ります。
再開発で、道幅が狭い祖師谷商店街の道路を広げる案も検討されましたが、「道幅が広がると、商店が続けられなくなる」という声も出されました。話し合いの結果、道幅を広げない代わりに、商店は道路に商品を並べないようにして、そこにバス路線を走らせて住民の足とすることが決まったといいます。
根岸さんは「区のトップダウンによる計画ではなく、住民や地域の商店の要求を出し合って、提案をまとめたことに、大きな意義があった」と振り返ります。
道家さんも、「住民と区の職員が地域を歩いて、どこを走るか、バス停はどこに置くかと一つひとつ決めていった。住民がつくった路線です」と話します。
道家さんがつくった署名は、大きな反響を呼び、6月末には544人分となり、7月半ばには800人分を超えました。
7月16日には、区長室長と面会し、816人分の署名を提出しました。区側からも、「せたがやくるりんは、住民との協働でつくった路線」「区として何ができるか、検討したい」と前向きな回答があったといいます。
運転士不足を理由に
区の問い合わせに、バスを運行する小田急バスは減便の理由に、運転士不足をあげました。2024年問題と言われる、運輸業の時間外労働の上限規制の開始で、従来からの運転士不足が、さらに加速したといいます。
日本共産党の、たかじょう訓子区議は、6月4日の区議会本会議で、便数を元に戻すよう区が事業者に働きかけることや、運転士不足解消のための区の事業者への支援を求めました。
区の大きな動きがあったのが、11月11日に開かれた区議会都市整備常任委員会でした。これまで、コミュニティバスへの財政支援を行ってこなかった世田谷区が、区内のバス事業者に運転士の年齢構成や離職状況などのアンケート調査を実施。コミュニティバスの減便阻止や労働環境の改善による担い手確保のため、財政支援も含めた支援を検討すると表明しました。
道家さんらは、取り組みを報告するために11月23日に「地域公共交通問題を考える集い」を開きました。
たかじょう区議は、「地域で多くの署名が集まったことが、大きな力になり、区も前向きに取り組んでバス事業者への財政支援の検討表明にいたりました。減便された便をどうやって元に戻すか、地域の人たちと協力して、さらに取り組みを広げたい」と話します。
