保団連 地域医療崩壊を招く マイナ保険証は拙速と会見

 マイナンバー(個人番号)カードの健康保険証利用の義務化と押しつけによる「地域医療の崩壊は避けなくてはならない」―現場の医師が語気を強めました。政府が2023年4月からマイナンバーカードの健康保険証利用(オンライン資格確認)の原則義務化を急速に進める中で9月22日、保険診療を行う診療所やクリニックの医師・歯科医らが加盟する全国保険医団体連合会(保団連)は現場での対応は困難を極めているとして、加藤勝信厚生労働相に「原則義務化の撤回を求める」要望書を提出し、記者会見を開きました。

 保団連は要望書の中でオンライン資格確認に対応している医療機関を医科診療で18%、歯科診療で19%弱(今年5月22日現在)と指摘し、「社会保障としての保険医療を守る立場の厚労行政が義務化を持ち込み、罰則を示唆して、医療現場に不安と混乱を持ち込むことはあってはならない」と強調しています。
 さらに問題は患者と医療機関ともに多くあり、導入は現実的ではないと指摘し、メリット、デメリットの慎重な判断が必要と述べています。

 今回の義務化は電子レセプト(医療機関が健康保険組合に請求する月ごとの診療報酬明細書を電子化して提出する)を用いている医療機関がすべて対象になるとされており、未対応の時は内容によっては保険医の資格を取り消すなどの処罰も盛り込まれています。歯科診療では約5分の1が電子レセプトに未対応だといいます。
 こうした政府のマイナンバーカード普及への前のめりの姿勢をあてにした業者から、医療機関には昼夜をわかたない勧誘があり、診療にも影響を及ぼしていると言います。専用機器や回線の導入に最低でも新たに約60万円以上の高額な費用がかかるために国から補助金が支給されますが、短期間での閉院などにより減価償却ができない場合は補助金の大半の返還が生じます。月々の費用もかさむことも業者の見積もりから明らかになっています。

 各地の保団連が実施したアンケートには、高齢の医師から費用をかけて対応しても数年中に閉院すれば負債が残るために「早期の閉院・廃院」を視野に入れるとした意見が一定数上がっています。医師不足と関連して起きている地域医療の崩壊に拍車をかけることになりかねないとして、保団連理事らは、「地域医療を支える医師が減ってしまえば、コロナ禍の中で安定した医療を供給できない」と危惧します。

 さらに、▽離島やへき地では光回線がない▽通信障害時に保険資格確認ができない▽端末機器対応が厳しい患者▽障害者医療や子ども医療費、難病などの公費医療や在宅医療が未対応▽情報反映のタイムラグ―など、問題は山積しています。保団連は「来年4月からの運用は実態を無視し、マイナンバーカード普及のために医療を利用する狙いがうかがえる」と訴えます。