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NY市長選 勝利の背景に都市富裕化 生活危機で社会主義支持が

 アメリカと世界の資本主義の中心地というべきニューヨークで、昨年11月に「米民主的社会主義者」(DSA)メンバーのゾーラン・マムダニ氏(34)が市長に当選したニュースは、世界を驚かせました。その背景やマムダニ氏の来歴、政策をまとめた『社会主義都市ニューヨークの誕生』(学芸出版社)を出版した矢作弘さん(龍谷大名誉教授)に、同市政について聞きました。(荒金哲)

 ―マムダニ氏の人物像や政策、それへの批判とマムダニ氏側の反論、ニューヨーク市政の歴史など、全体像がまとまった本です。出版の経緯は?
 日経新聞時代はロサンゼルス支局長も務めましたし、研究者としてもアメリカの都市政策を研究して何冊も本を出版してきました。昨年6月の民主党のNY市長選の予備選でマムダニ氏が圧勝して、このまま本選の市長選でも勝つだろうと見込んで、準備を進め、市長選から1カ月余りで出版しました。

製造業から金融に
 ―ニューヨークが、都市のジェントリフィケーション(中流社会化)で、庶民が住めない街になったことが、今回の選挙結果の背景にあったことを解き明かしています。
 もともとニューヨークは、東京でいえば大田区や墨田区のような、製造業の街でした。それが1970年代までに脱工業化で製造業が衰退し、あちこちの工場が閉鎖したり、郊外化による移転が進むなどして、人口が減っていき、市の財政もほぼ、破たんします。ちょうど、新自由主義が席巻した時代だったことも重なり、道路や公共施設
清掃、治安などの公共サービスが後退し、街が荒れたままに放置されていました。
 他方で、80年代のレーガン政権は金融の緩和を進めて、ニューヨークを、ロンドン、東京と並ぶ世界のファイナンシャルセンターに位置づけます。
 これにより、FIREと呼ばれる、ファイナンス(金融)、インシュアランス(保険)、リアルエステート(証券化された不動産)を扱うマネー資本主義の担い手たちが、ニューヨーク経済の中心になりました。さらに、これらの業界を支える弁護士や、経済コンサル、会計士などの専門職種が街に入ってきます。
 こうした富裕層のために、高級アパートや、高級なレストランなどがマンハッタンに整備されて、荒れ果てていた街が、高級化して「再生」される。これがジェントリフィケーションです。ただ、当時は、クイーンズやブルックリンといった周辺地域は、昔ながらの工場や、低所得者向けの住宅が残っていました。

住む家に困る人が
 ―ものづくりの街から富裕層しか住めない街に、という変化は東京にも重なります。
 さらに2000年代に入ると、IT化の流れに乗って、グーグルやアップルなどの情報通信産業のビックテックがニューヨークに進出します。高級住宅や富裕層向けの施設が、クイーンズやブルックリンにもつくられ、街が激変していきました。
 こうした高給を得る専門職の生活の特徴は、「自立していない」ことです。ホテルでベッドメーキングや清掃をしてくれる人たち、レストランで料理や皿洗いなどをしてくれる人たちがいないと、生活が成り立たない。それにもかかわらず、こうした仕事を担う低所得者層が住める家がニューヨークから急速に奪われていきました。
 こうして住む家に困った人たちが、移民問題や住宅問題に取り組む団体などに助けを求めていくなかで、運動がつながり、連帯していきます。これらの運動が、DSAと結びつき、彼らが政治的に躍進していく基盤になりました。2018年には、世界的巨大企業であるアマゾンがクイーンズに第二本社を置く計画を、さまざまな団体、労働組合、州・市議会議員が連携した運動で断念させる成果をあげています。
 マムダニ氏も、もともとクイーンズで住宅差し押さえ防止のカウンセラーとして働いていました。州議会には、DSAのメンバーが、この本を書いた時点で9人いましたが、そのうち8人がクイーンズやブルックリンからの選出です。DSAの政治的な基盤がどこにあるのか、よく表しています。

韻を踏む社会主義
 ―マムダニ氏の政策は、生活に密着したものが並びます(表)。
 日本のメディアの多くが、アメリカの保守系メディアにならってマムダニ氏を「急進左派」と表現しますが、その政策の多くはヨーロッパにおける社会民主主義に近いものです。
 アメリカでは20世紀初めに百数十人の社会党員市長が誕生しました。これらは「下水道社会主義」と呼ばれ、下水道の整備といった生活に身近な問題を解決していこうという社会主義でした。
 当時は、産業革命によって、多くの移民がアメリカに入ってきました。彼らが、アメリカの産業革命の労働需要の担い手になる一方で、急速な人口増加に都市インフラの整備が間に合わず、多くの生活問題が発生しました。産業革命で豊かになる人たちと、生活の基盤すら十分にない人たちの格差が大きく拡大していく。そのなかで、社会主義を掲げる政治勢力が支持を集めたのです。
 これは、金融革命、AI革命によって、経済格差が広がっている現代のアメリカにも、よく似ています。そのなかで、DSAが支持を集めている。まったく同じ状況ではないですが、「韻を踏む」事態が起きているのです。
 これらは、アフォーダブル(生活のしやすさ)の危機と言えます。トランプ大統領も、実は、このアフォーダブルの危機を抱えている人たちの支持を集めています。トランプ氏は、その原因を、移民がアメリカに入っていることや、外国の製品の輸入だと言っている。それに対し、DSAや、マムダニ市長は、政治こそがおかしいと訴えているということです。

草の根の運動こそ
 ―DSAやマムダニ市政の取り組みから日本が学ぶべき部分を、どうとらえていますか。
 フランスの思想家のトクヴィル(1805〜1859)が、『アメリカの民主主義』という著書で、アメリカ人は組織をつくる天才だと指摘しています。
 少年野球の保護者の会にはじまって、ペットに関する集まり、もっと政治的な団体まで、さまざまな組織をつくる天才で、それがアメリカ民主主義の基礎になっているという指摘です。
 先ほど紹介したように、こうした基礎的なコミュニティでの組織があったからこそ、ジェントリフィケーションによって都市に居場所がなくなった人たちを受け入れて支援し、運動をつくり、DSA躍進の基盤になりました。
 日本においても、こうした草の根の組織、運動づくりこそが、社会を変えていく根幹なのだと思います。

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