離婚後の共同親権制度が4月から施行されたもと、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の被害者に同制度がもたらす危険性を描く映画『五月の雨』が、全国の劇場で公開されています。夫による精神的DV、モラルハラスメントに苦しむ家族を描くドラマパートと、関係者に取材したドキュメンタリーパートで構成されています。映画を製作した「ちょっと待って共同親権ネットワーク」のメンバーで、ドキュメンタリーパートにも出演した岡村晴美弁護士に聞きました。

被害者救済に取り組む弁護士
岡村晴美さんに聞く
―映画化の経緯を教えてください。
共同親権の問題は、どうしても分かりにくい面があります。ちょっと待って共同親権ネットワークのメンバーで、映画の製作総指揮を務めてくれた熊上崇さん(和光大学教授)と私は『面会交流と共同親権』という本を共著者として出版しています。その編集会議には、DV被害者の女性たちも参加していて、会議の際に熊上さんが「これはドラマや映画にしないと伝わらないな」と言われたんです。私は、まさか実現するとは思わず、「私の役はどの女優さんにやってもらおう」なんて冗談で話していましたが、熊上さんは有言実行の人で、監督や脚本家を見つけて、映画化にこぎつけてくれました。資金の確保のため、クラウドファンディング(ネット募金)もやって、多くの方にご協力いただきました。
―映画を見て、どんな感想を持ちましたか。
映画の脚本づくりの段階から、DV被害者の体験が多く詰まっているので、とてもリアルな描写になっています。共同親権をめぐる国会質疑の動画や、ドラマパート、関係者へのインタビューなどさまざまな映像を、監督が分かりやすく構成してくれました。同時に、リアルなだけに、DV被害の当事者の女性からは、怖くてとても見られないという声も聞きます。安心感のある少人数のメンバーで、あたたかいお茶なども飲みながら視聴できるような機会をつくっていくのは、今後の課題かなと思っています。
「虎に翼」に続き
―ドラマパートで妻を演じるのは、NHKの朝ドラ「虎に翼」でもモラハラのDV被害者を演じた安川まりさんですね。
私も「虎に翼」をずっと見ていたので、ぴったりの方が引き受けてくれたとうれしかったです。安川さんにお会いした時には、「(役として)80年余りを経て現世に生まれ変わったのに、また、DV被害者にしてもうしわけありません」と申し上げました(笑)。安川さんは試写会の舞台あいさつで、「名もなき生活者の代弁をするのが俳優の仕事だと先輩から聞いてきた。この役で、その役割を果たせたんだったら、うれしい」とおっしゃっていました。夫役の方も含めてさすが俳優さんで、DVのある家庭の様子が、リアリティを持って伝わってきます。
―改めて共同親権の危険性は。
三つの局面があると思っています。まず一つは、映画でも描かれているように、離婚時に意思に反して共同親権を選択してしまうことで、自由に転居もできない、子どもの進学先を決めるのも、相手の許可を得ないといけないといった問題です。DVで支配されていた相手に連絡をとって、大量の反論の返信が送られてきたりする。それを見て、精神的に追い詰められて連絡を取れないとなると、父母の協力義務違反にされかねません。許可を取るために、面会を毎日させろとか、金をよこせといった条件に使われる可能性すらあります。
二つ目に、たとえ単独親権で離婚したとしても、共同親権への変更の申し立てが繰り返されて、子どもが18歳になるまで、延々と裁判が続く可能性です。現在でも、面会交流がその手段に使われていて、面会交流はできないと決まったのに交流を求めたり、回数を増やせと延々と申し立てを繰り返す別居親がいます。
三つ目は、現在、婚姻が継続している場合です。離婚後と同様に婚姻中も共同親権だからといって、DV被害者が別居したり、子どもを連れて逃げるのを妨害するために使われる危険性です。
有害な申し立てが
―4月に制度が施行されました。
DV加害者から「共同親権の申し立てをした」という連絡を受けた相談が続出しています。DVの実態から、絶対に共同親権を認められないだろう加害者が申し立ててきます。ある加害者は、「僕は、この申し立てが認められようが認められまいが、いまの生活には関係ない。せいぜい頑張りなさい」とコメントを送ってきました。この言葉自体を裁判の証拠に出すのだから、共同親権が認められるわけないのに書いてくるわけです。こうした有害な申し立てを生んでいる実態を、法務省はきちんと追跡調査するべきです。
裁判所には、DVのあるなしにかかわらず、父母が協力体制を取るのが無理だと判断するなら、きちんと冷静に見極め、単独親権にする運用を求めたいと思います。
―映画を見てDVをなくしていくという根本問題の重要さも感じました。
DVは支配なんだという本質を、司法も含めて多くの人に知ってほしいと思います。例えば、先ほどのように「共同親権を申し立てました。あなたも頑張って」という言葉も、相手は「応援しただけで暴力ではない」と言うかもしれません。しかし、この言葉一つで、被害者は心をえぐられ、精神的に限界まで追いつめられる。それは、同居する子どもの養育環境の維持にとっても、非常に良くないことです。いじめやハラスメントでは、身体的暴力がなければ、精神的暴力があっても構わないという対応はとられません。家庭のなかで起きるDVでは、それがなぜか軽視されてしまう。映画を通じて、DVの実態が多くの人に知られることを願っています。
