地域の願い乗せ実証開始 足立区花畑ぐるりん 交通空白地域で定期運行

 足立区の花畑地域で10月20日から、区の「地域内交通導入サポート制度」を活用した新たな地域交通「花畑ぐるりん」の実証実験が始まります。住民の足がなくなっていた同地域で、住民や町会・自治会長らが協議会を立ち上げて、停留所の数や運行の仕方などの話し合いを重ねて、作り上げてきた新たな交通のスタートです。

守れ地域の足
公共交通クライシス

 花畑地域では、交通不便解消のための「社会実験バス」として、2021年10月から区と東武バスが協定を結んで運行する「ブンブン号」が走っていました。しかし、区は、収支率の目標に達しなかったとして、運行を2024年3月に終了してしまいました。
 区はブンブン号に代わるものとして、より小さな範囲での交通手段を支援する新事業・地域内交通導入サポート事業の対象に、花畑地域を選びました。
 ただ、当初は、区が集めた町会・自治会長らを中心とした会議で検討が進んでいたといいます。転機となったのは、会議に参加する会長や、住民からの「若い人たちが参加できる時間に開いてほしい」という要望で、今年1〜3月に開いた説明会です。地域の交通に関心を持つ人や、インターネットの活用が得意な人など、現役世代が複数、活動に加わりました。
 その一人、小栗由里子さんは、「最初は説明会を聞くだけのつもりだったのが、終了後、『あなたの質問が、とても良かったから』と何人かの方たちから家を訪ねて誘われたんです。家族には、『高齢の友達が急に増えたね』と言われています」と笑みをこぼします。

意見交流会を重ね
 住民らは、従来の会議を拡大して、「花畑地区交通協議会」を立ち上げ、検討を進めます。
 ただ、路線の大枠などはすでに決まっていて、一から路線を考え直すとなると、開設時期が遅れることになります。この半年間の検討で、路線を一部、追加したり、停留所の数を当初の13から21まで増やして高齢者が乗りやすくするなどして、10月からの実証実験開始にこぎつけました。
 実証実験で「花畑ぐるりん」は、花畑八丁目アパート前から花畑区民事務所まで、直線距離で1・8キロメートルほどを、一律100円の運賃で、45分間の定時運行でつなぎます。ワンボックス型の車両で、運転は地元のタクシー会社が担います。
 協議会は現在、沿線地域での意見交流会や、試乗会を繰り返しています。そのなかで、どうすればスムーズに乗り降りができるかや、運賃の支払い方法などを、一つひとつ決めてきました。
 小栗さんは、「住民の意見を直接、聞く場を持ちたくて開いています。大変さもあるけれど、声を聞くことで、運行の仕方などをより良いものに変更できることも実感しています。協議会のメンバーには、自治会や町内会で役員を務めてきた人も多く、会議の運営や試乗会の準備など、協力し合いスムーズに動いてくれます」と話します。

資金は大きな課題
 試乗会では、多くの課題も見えたといいます。
 用意された車両は、自動で降りるステップがないもので、高齢者などの乗り降りのための踏み台を運転手が出す必要があります。
 試乗の体験者からは、「雨の日もあるし、停留所のたびに踏み台を出すのは大変で、運転手さんに申し訳ない」との声が出されています。協議会は区と話し合い、車両に自動ステップを導入できないか、検討しています。
 車両の準備や運行費用など、資金面は大きな課題です。さらに区の要綱では、実証実験を踏まえて本格運行に移るかも、収支によって区の補助額が基準の範囲内に収まるかを条件としています。
 同地域で活動する日本共産党の山中ちえ子区議は、「交通空白地域の解消は、切実な課題で、区議会でも、超党派で区の施策充実を求める決議があがっている」と紹介。「区も決議を受けて採算性一辺倒の対応は改めつつありますが、区の豊かな基金を使った支援が必要です。また、全都、全国的な課題なので、都も財政力をいかして、きちんと支援してほしい」と強調します。

お出かけ地図風に
 沿線地域にある自治会の元会長で、協議会会長を務める山田市郎さんは、「多くの人たちの協力で、ようやく実証実験が始まるところまで来ました。区の職員も、予算の制約がある中で、私たちの意見を少しでも取り入れようと、頑張ってくれた」と話します。
 河津桜の並木や公園などのスポットを掲載した「お出かけマップ」風の運行地図は、その一つです。「花畑ぐるりんが、住民が地域を知るきっかけになってほしい」という協議会メンバーの希望を受けて、区の若手職員がデザインしました。
 協議会の関係者は今後、花畑ぐるりんを通して、地元の飲食店も巻き込んで地域を盛り上げていくことにも、夢を膨らませています。
 実証実験を前に、「たくさんの人が乗ってくれるように、しっかり『営業』するのが、私の仕事」と意気込む山田さん。10月20日、花畑ぐるりんは、より良い地域を願う住民の思いも乗せて、走り出します。

 都内各地で、「地域の足」がない公共交通空白の問題が深刻化しています。各地の取り組みを不定期連載で追います。

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