事業者利益で超高層ビル 神宮外苑 計画の変更過程、明らかに

 スポーツ拠点整備とは名ばかりで、開発事業者と土地所有者に利益をもたらす方向に計画は変更された。その結果、貴重な樹木の伐採、歴史的景観が破壊される矛盾に直面することになった―。都が進める神宮外苑の再開発(新宿、渋谷、港区)をめぐって、多くの都民から「なぜ樹齢100年に及ぶ約1000本もの貴重な樹木を伐採するのか」など、疑問や批判が噴出しています。日本共産党都議団は都がまともな情報公開も都民への説明もしないまま強行する背景に、森喜朗元首相の深い関与があることを情報公開請求で明らかになった新事実をもとに迫りました。

共産党都議団が告発の会見
 神宮外苑の再開発計画の対象となる地域は、宗教法人の明治神宮や独立行政法人の日本スポーツ振興センター(JSC)が保有する約28㌶。元は1926年に国民からの寄付金や献木、勤労奉仕によって創建され、国内初の風致地区に指定されました。強い規制によって開発から守られたことで、都心にありながら樹木が生い茂り、樹齢100年のイチョウ並木は今や外苑のシンボル的存在です。ところが再開発ではイチョウ並木の一部を含め、約1000本もの樹木が伐採・移植(70本)されます。

当初計画にない超高層ビル建設
 今回、共産党都議団の請求で開示された資料の一つは、2012年5月15日時点の再開発計画案で、これまで黒塗りだった部分が、初めて開示されました。資料の左がそれにあたり、10年前当時、都が森元首相へ説明した「再整備のイメージ」図では、現行計画と同様に野球場とラグビー場の場所が入れ替わっていますが、超高層ビルをつくる計画はありませんでした。野球場の位置も、イチョウ並木からは離れた位置にあり、景観への影響も少ないように見えます。
 一方、14年の計画図(右)では、野球場の西隣の土地で、後に超高層ビルが計画される場所に「事務所ビル等」が設置され、野球場が大きくイチョウ並木に近寄ります。この時の計画ではスポーツ関連施設が設置されていましたが、現行計画では高層ビルと広場に変わっています。
 原田あきら都議は都庁で開いた記者会見(4月26日)で、2つの図を比較しながら、野球場がイチョウ並木ぎりぎりの位置に変更されたことについて、「イチョウ並木の景観より、超高層ビルや商業施設が優先されたことが明らかになった」と指摘。さらに、神宮外苑再開発が「スポーツ拠点整備」とは名ばかりで、都が主導し森氏が深く関与して、事業者の三井不動産や明治神宮に利益をもたらす方向に変更されてきたと主張。「結果として、樹木の伐採、歴史的景観の破壊など大きな矛盾に直面していることが明らかになった」と強調しました。

サブトラ計画消失謎の一端が解明
 国際的な競技大会を開くにも必要となるサブトラックの設置計画が、新国立競技場からいつ、なぜなくなったのか、共産党都議団が追及してきましたが、都からは理由が示されず、謎のままでした。
 原田都議は、その理由について「超高層ビルや商業施設をつくる『まちづくり』のために、新国立競技場に必要なサブトラックを設置する『空間余地』がなくなったからだ」と、イメージ図を示して主張。「ここでも恒久サブトラックより超高層ビルや商業施設が優先された」と告発しました。

森元首相の深い関与を裏付け
 都が森元首相に再開発計画のイメージ図をもとに説明した2012年当時、都民に対して都は何一つ説明していませんでした。資料は、そうした中で森氏には2012年5月に説明し、その案を2014年7月の新案の重要な基準とし、そのことを都の公文書にも公然と書いていたのです。
 原田都議は「驚くべきことだ」と述べ、新案についても森氏に面会・説明した可能性が高いと推測。再開発計画が森氏の意向重視で進められてきたことが、改めて浮き彫りになったと指摘しました。
 一方、今回開示された文書にも多くの不開示部分が残されており、共産党都議団は「引き続き再開発をめぐるブラックボックスの解明に全力を尽くすとともに、樹木伐採中止、再開発計画の中止・抜本的な見直しを都に求めていく」としています。

大学生ら「伐採即中止を」外苑周辺で署名活動
 明治神宮外苑地区の再開発により約1000本の樹木伐採が計画されている問題で、大学1年生の楠本夏花さん(18)を中心とした若者らが伐採に反対する署名活動を進めています。
 楠本さんが署名活動を始めたのは、イタリアで通訳の仕事をしながら、自然保護の活動にも力を入れている叔母の影響。神宮外苑の再開発計画について知った叔母が伐採中止を求めるオンライン署名(Change.org)を立ち上げたことで楠本さんも問題の深刻さを認識。状況を「少しでも変えたい」という思いから、2月末から外苑前の並木道など街頭に立ち、1000本の樹木を守りたい思いを詰め込んだビラの配布や、計画の見直しを求める署名活動を続けています。
 署名活動には、気候変動対策を求める若者主体の集団「Fridays For Future(FFF、未来のための金曜日) Japan」のメンバーも協力。計画に反対する声は広がっています。
 楠本さんは5月22日と6月5日に、外苑周辺で友人らとともに伐採の中止を求めるデモを計画。22日のデモには叔母の淳子さんも一時帰国し、参加する予定です。楠本さんは「協力してくれる人が多いほど、まだ再開発の計画を知らない人にアピールできる」と、署名への賛同やデモへの参加をSNS(ネット上の交流サイト)などで呼び掛けています。

日本イコモスが代案現在地建替で伐採2本に
 ユネスコの諮問機関の日本イコモス国内委員会は、神宮外苑再開発計画に対し、都市計画決定された内容を前提に代案を提案しました。同委員会は神宮外苑の景観を「20世紀初頭の都市美運動が結実したもの」と強調しています。
 代案はラグビー場を現在の場所に建て直し、移設に伴う伐採を減らします。イチョウ並木を含めた外苑内の車道を歩行者用通路に変え、新野球場を建設する位置を調整。試算では伐採2本、移植53本に抑えられるとしています。

国として指導を山添氏ら聞き取り
 日本共産党の山添拓参院議員は4月26日、地域住民や市民団体、原田あきら、尾崎あや子、原純子の各都議、関係地域区議らとともに、文部科学省と国土交通省から神宮外苑再開発について聞き取りしました。
 山添氏は計画について「スポーツ拠点をつくるために立派な建物をつくると言うが、昔から親しまれてきた施設と環境を壊すものだ。文科省として指導すべきだ」と強調。担当者は「意見を言える立場にない」と回答。原田都議は、独立行政法人の日本スポーツ振興センター(JSC)が秩父宮ラグビー場を所有しているとし、「国には法人の財産処分申請に対し認可権がある。申請書は受け取ったのか」と質問。担当者が「受け取っていない」と認めたのに対し、原田都議は「すでに工事が進んでいる」と、問題視しました。
 住民からは「新国立競技場は赤字を出している」「現在の施設を修復・活用する検討は行われたのか。再開発ありきの計画ではないか」などの意見が出されました。

神宮外苑の再開発計画
秩父宮ラグビー場(JSC所有)と神宮球場(明治神宮所有)の位置を交換、建て替えます。高さ190㍍と185㍍の超高層ビル2棟や商業施設を建設。学生野球が開催される神宮第2球場や市民が使用できる軟式野球場、ゴルフ練習場、フットサル場、テニス場は廃止されます。再開発の事業主体は三井不動産、伊藤忠商事、明治神宮、JSCの4者で、工事期間は2036年までの14年間を見込んでいます。近隣住民や専門家から歴史的景観の破壊や風害、騒音被害、交通渋滞など、環境破壊を心配する声が相次いでいます。3月には再開発見直しを求める5万人以上のネット署名が小池百合子知事に届けられなど、反対世論が大きく広がっています。