平和憲法対談 平ゼミでロシアに抗議 田原ちひろさん 日本共産党参院議員 山添拓さん

田原 微力でも社会変える主権者
山添 正義求める声生かす政治を

 ロシアのウクライナ侵略をめぐって、国会では9条改憲による軍拡論議が噴出するなど、夏の参院選は「戦争か平和か」を問う歴史的な選挙となります。憲法9条とウクライナ情勢、若い世代に広がる運動などをテーマに、東京高校生平和ゼミナール(平ゼミ)のメンバーとして3月にロシア大使館に抗議した田原ちひろさん(現在・大学生)と、山添拓参院議員(日本共産党、東京選挙区)が語り合いました。
(荒金哲 写真・五味明憲)

 ―田原さんたちのロシア大使館への抗議はマスコミでも注目されました。
 田原 ロシアがウクライナに侵攻して、核兵器を使うとまで言い出す。今まで、平ゼミでも被爆者の方たちの話などを何度も聞いてきたので、核兵器で脅すことは絶対に許せないという思いで抗議に行って来ました。
 山添 なぜ大使館に行こうと思ったんですか。
 田原 本当は、ロシアの国に直接、行きたいくらいなんです(笑)。
 山添 すごいですね。
 田原 でも、それもできないので。紙とインターネット、両方で署名も呼びかけて、1週間で5000人分を集めていただきました。
 山添 ウクライナにも悪いところがあるといった一歩引いた論調も一部にあるなかで、国連憲章を踏みにじって、侵略戦争を仕掛けたロシア側に、直接、抗議する。すごく大胆で、かつ、大事な姿勢ですよね。
 ロシアは当初、勝手に独立を認めた東部2州との集団的自衛権を行使するなどの理由をつけていましたが、もはやそれすらほとんど言えなくなっています。国連憲章上の大義、武力行使を正当化する理屈をまったく示せない。そのことにロシアの孤立ぶりが表れています。
 世界の人々が、あらゆる場面で、国際人道法違反と戦争犯罪を許さないという声をあげることが大切で、若い人たちから、戦争を認めないという声が上がっているのは、大きな希望です。

世界と社会の変化の表れが
 ―抗議に行ってどんなことを感じられましたか。
 田原 やっぱり私自身、戦争というのは、教科書の中の出来事として感じていたところがあったのに、それが目の前で起こっている。実際に起こるものなんだっていうことをすごく感じました。多くのマスコミで私たちの抗議が注目され、取り上げていただけるのはうれしいことなんですけれども、こういう抗議行動をしなくてはいけない、そのこと自体がすごく残念なことです。
 山添 田原さんは4月に大学に入ったそうですが、私は大学の入学の年に、ちょうどイラク戦争(2003年)が始まったんです。私も当時、同じような思いを抱いていました。歴史の教科書の中での話だと思っていた戦争が、現在のカラー映像の中で繰り広げられている。そのことへの憤りで、何とかしたい、何かしなければ、それが学生時代に平和の活動に取り組み始めたきっかけでした。
 その当時は現在と違い、アメリカが起こした戦争を日本も支持し、国連憲章違反かどうかをまともに論じようともしませんでした。また、先ほどロシアが核兵器を脅しに使っていることのひどさという話がありましたが、これも核兵器禁止条約がすでにできていることで、国際的な条約に違反していると批判することができる。そういう意味で、この間に、国際社会が大きく変わってきたことを感じますね。
 ―ロシアへの抗議の広がりの一方、戦争を止められないことに無力感を感じる人も多くいます。
 山添 いつまでこの戦争が続くんだろうとか、デモや署名をやっても止められないのでは、そういった思いを持つ方はいるかもしれません。
 同時に、プーチン氏が一番、恐れているのは、やはり世論、特に国際世論ですよね。だからこそ、国内では、プーチン氏のいう“フェイクニュース”を流したら禁固刑、といった法律をつくる。ウクライナで起こっている国際法違反や戦争犯罪だと告発されることを、最も恐れているということです。
 国際社会が一致して声をあげるなかで、プーチン氏側がこうした主張をフェイクだと言わざるを得なくなっている、この状況をつくっているということが、大事だと思います。
 田原 友人からも、ロシアに対して何をしたら良いのかわからないという声を聞きました。私たちには、署名を集めるとか、抗議行動をするとか、小さいことしかできない。だけれど、プーチン大統領が最も恐れているのは、若い人たちの世論だと思います。緊急署名を紹介したら、オンラインならできると協力してくれた友人も多くいます。抗議の声をあげる選択肢を示せたことは、本当に良かったと思います。

若い世代の未来奪うな
 ―気候危機や核兵器廃絶、格差社会是正など、若い世代の運動が世界でも日本でも広がりを見せています。
 田原 気候変動のことだったり、核兵器のことだったり、もう大人に任せておけないという思いが強いのだと思います。核兵器でいえば、唯一の戦争被爆国の日本が、核兵器禁止条約に参加しないなんてありえない。もう今の政治家には任せてはおけない、私たちが声をあげないと、という思いを多くの人たちが持っているのだと思います。
 山添 ドキっとします(笑)。大人の責任は重大ですよね。若い世代の声を受け止める政治にしないといけないと思います。授業やサークル活動などいろいろ大事なこともあるなかで、自分の時間を割いて、社会に声をあげている若い世代の声を生かすことなしに、「若者は政治参加が少ない」などと言う政治は不誠実です。
 田原 私自身は、平ゼミで活動していく中で、さまざまな問題で、署名を集めたりして、自分自身が社会を変えていけるんだ、という主権者意識をもてたのが、すごく大きかったと思います。私たちは、微力だけれども、無力ではないという言葉を聞いて、本当にその通りだと思いました。
 山添 政治を変える根底にあるのは、このままでよいのかという怒りだと思うんです。気候正義という言葉があるように、今の気候対策の選択が、この先、それを選べない若い世代の未来を奪っていく。それは正義に反するのではないかという訴えが広がっています。
 どんな問題でもやっぱり、正義に反する政治があってはならない。公正でない社会のあり方に憤りを抱いて、若い世代が声をあげているのは、当然だと思うし、同時に、その動きにすごく励まされます。(2面に続く)

憲法9条の理想を現実のものにしたい
田原 学んだことを力に楽しく
山添 参院選を平和への転機に
 ―田原さんは高校生平ゼミの活動を、どんなきっかけで始めたのですか。
 田原 高校1年生の時に、長崎の原水爆禁止世界大会に参加しました。
 そこで高校生平和集会というのがあって、全国の高校生が核兵器廃絶のために活動していることを知ったり、被爆者の方たちの話を直接聞いた、それがきっかけです。
 ―東京とニューヨークをつなぐ高校生折り鶴プロジェクトにも取り組まれました。
 田原 日本は唯一の戦争被爆国なのに、核兵器禁止条約に署名・批准をしていない。日本の文化であり、平和の象徴でもある折り鶴を、世界に存在すると言われる核兵器の数、1万4525羽を目標に折って、NPT(核不拡散条約)再検討会議と原水爆禁止世界大会が開かれるニューヨークに届けようというプロジェクトです。
 山添 1万4千以上、折るのは大変だったんじゃないですか。
 田原 授業中に折ったりしていましたね(笑)、注意されたりして。友だちや先輩に呼びかけたら協力してくれて、朝、登校したら私の机に折り鶴がきれいに並べられていることもありました。半年間で目標の数を集めることができました。

9条を生かした知恵と努力こそ
 ―山添さんも学生時代、全都の学生9条の会を結ぶピースナイト9などで活動されました。
 山添 何かの運動をやりたいと思っている学生は少なからずいるけれども、それぞれが点在している状況です。思いのある人たちが集まって一緒にやれるようにと、各大学の学生の九条の会を結んで、講演会やイベントに取り組んだりしました。
 高校生平ゼミも、いろいろな高校から集まって仲間になる。楽しいでしょうね。
 田原 今年の3月末には福島に行ったんです。平和学習というのももちろんそうですが、コロナ禍で修学旅行もなかったので、修学旅行気分で、みんなで楽しみました。
 山添 それは良かったですね。福島はどこに?
 田原 原発事故を住民の目線から伝える「原子力災害考証館」(いわき市)や、楢葉町の宝鏡寺です。
 山添 宝鏡寺の住職の早川篤雄さんは、「福島原発避難者損害賠償請求訴訟」の原告団長をされて、私も弁護団でした。早川さんたちの裁判は最高裁で勝訴が確定しましたが、11年かかってもまだまだ救済されていない人たち、帰りたくても帰れない人たちがたくさんいます。
 田原 早川住職のお話を聞くと、核の平和利用って、嘘と偽りで塗り固められたもので、それにだまされてはいけない。学んで知ることの大切さをすごく感じました。

 ―国会では昨年の衆院選で改憲勢力が3分の2を占めたことで、改憲論議が強まっています。田原さんは、どのように感じられますか。
 田原 軍事力で平和をつくる、そのこと自体が矛盾していると思います。憲法9条は、すごく先を見通した、高い理想ですよね。その9条があることで、海外で武力行使をすることを防いできたのに、9条をなくして、自衛隊が海外で戦えるようにしていく。悲しくなる動きです。
 山添 先日の憲法審査会でも、自民党の議員から、共産党は憲法と自衛隊の関係をどう考えているんだと質問されました。
 9条と自衛隊は、明らかに矛盾しています。だけれども、憲法で掲げている理想と現実が矛盾している場合というのは、いくらでもありますよね。たとえば、人間の平等を定めている憲法14条。実際には男女のジェンダーギャップがこれだけある。だったら、現実に合わせて、平等を定めた憲法を変えるでしょうか。
 理想として目指すべき方向性があるから、それに向けてどう現実を変えていくか、そこに政治の役割があるはずです。

学生平ゼミを立ち上げたい
 ―日本が攻められたら、という不安が国民に広がっている面もあります。
 山添 ロシアは日本に近いし、中国の覇権主義的な行動もあるし、北朝鮮の軍事的な挑発もある。そこに不安を感じる人は当然いると思います。
 もし攻められたら、自衛隊も含めていろんな手段を使って国民の命を守るのは当然です。同時に、そうなれば、必ず何らかの犠牲が生じますよね。「万が一攻められたら」ということ自体が、本来、あってはならないシナリオなのです。九条を生かした平和外交は、単純に軍備を増やせばよいという対応よりも、ある意味では、はるかに知恵と努力が必要ですが、そこにこそあらゆる努力を尽くすべきです。
 ―田原さんは、大学で今後、どんな活動を?
 田原 学生平和ゼミナールを立ち上げたいと思っています。核兵器のことを中心に据えて、学習会を開いたり、署名などにも取り組んでいきたい、そう思っています。
 山添 相談などを進めているんですか?
 田原 5月に結成の集いを開きたい、と。
 山添 楽しみですね。

 ―参院選へ、山添さんの決意を。
 山添 正面から平和と憲法9条が問われる選挙です。この選挙が、日本の戦争への分かれ道だったとさせないために、むしろ、この選挙で頑張ったことが憲法9条を守り、新しい平和な日本へと踏み出す一歩だったという転機にするために、頑張りたいと思います。
 日本共産党は今年、100周年ですけれども、今よりもっと国民の権利も民主主義もないもとで、あの戦争に反対し反戦平和を貫いた先輩たちがいた。それがあって、平和憲法を勝ち取ったわけですから。その歴史と伝統に恥じない結果を、必ず出したいと思います。