医師大量退職、10億円赤字 独法化11年 健康長寿医療センター

新型コロナウイルス感染症から都民の命と健康を守るうえで、都立病院(8病院)と公社病院(東京都保健医療公社・6病院)は、コロナ専用病床確保の中心を担うなど、重要性が増しています。ところが小池百合子都政は、全ての都立・公社病院を、より民間に近い経営形態となる地方独立行政法人に一括して担わせる計画(独法化)です(22年度内めどに法人設立)。都は独法化で人材も集まり、経営も安定すると、バラ色に描きますが実際はどうなのか―。都議会論戦から探りました。

「経営安定」どころか…
10月2日の都議会厚生委員会。この日、議題にのぼったのは11年前の2009年、東京都老人医療センター(板橋区)が都立病院で初めて地方独立行政法人に移管された東京都健康長寿医療センターの2019年度業務実績評価。
経営状況を見ると、2018年度は11億円、翌19年度も10億円の赤字を出していました。

赤字原因は医師欠員
質疑に立った日本共産党の白石たみお都議は、「約10億円の当期損失で、とりわけ医業収益が減った理由とは何か」とただします。都側から返ってきた答弁は「常勤医師の欠員が発生しましたが、これが補充できず、入院、外来ともに患者数が減少したことによるもの」(高齢社会対策部長)というものでした。
医業収益とは医療行為によって得られた売り上げのこと。医師が減れば連動して医業収益は減少します。実際、常勤医師数の推移をみると、2018年度から19年度にかけて14人減り、20年度は1人しか増えていません。14人という数は外科や内科など、複数の診療科がなくなる規模で、病院にとっては「緊急事態」とも言える数。ところが翌年、わずか1人しか増やすことができなかったのです。
都は独法化を強行に進める理由として「都立病院が今後も役割を持続的に果たして行くためには、迅速かつ柔軟な運営が不可欠であるが、現在の経営形態には、医療スタッフの採用などに制度的な課題」(都病院経営本部ホームページ)があるとし、独法化さえすれば全て解決するかのようにアピールしてきました。
しかし、その見本となるはずの同センターの実際は、とてもうまくいっていると言えません。白石都議は「独法化によって人材確保が柔軟になるというのは間違い」と、都の言い分を真正面から批判しました。

経営改善は人件費削減
経営改善はどうか。同法人がコスト削減のターゲットにしたのは、看護師の夜間看護業務手当でした。一律月額5万円を支給していたものを実績に応じた支給とし、月5回以上夜勤をしないと見直し前より手当が減る仕組みにしました。
同センターの看護師のほとんどが2交代で、その場合、負担が過重とならないように、夜勤は月4回以下とするよう、“72時間ルール”が定められています。それなのに収入を減らさないためには、このルールを無視して重い夜勤負担をあえて負うか、収入減を受け入れるかの二者択一となります。
白石都議は、どちらにしても看護師に負担を強いる経費削減のやり方を批判。「過重労働の是正と安全な医療提供の確保のために、抜本的に看護師を増やさなければ、今の事態を根本から改善することはできない」と指摘しました。

コロナ対策は「お願い」に
都は独法化しても、救急医療・周産期医療・小児医療などの行政的医療を安定的・継続的に提供するという都立病院の役割は変わらないと言います。また、患者負担の決め方も変わらないとしています。
しかし健康長寿医療センターは、最高2万6000円の高額な個室が4分の1を占めるようになり、有料の割合は都立病院の2・5倍に。また、都立病院にはない入院保証金10万円を支払う仕組みも導入しました。
コロナ対策でも違いが浮き彫りになりました。都は都立・公社病院では合計1000床を確保する方針ですが、同センターには重症患者用3床を要請し、実際確保されたのは2床にとどまっています。
白石都議が同センターの位置づけについてただしたのに対し、都は「他の公立、公的医療機関と同様の位置づけ」と答弁。都の医療政策に直接位置づけられる都立・公社病院とは異なり、コロナ対策で“要請”や“お願い”にとどまることを認めました。

独法化見直し求める
都立病院や公社病院は、都民に欠かせない重要な医療、とくに民間病院では継続が困難な不採算な医療に税金を投入して運営しています。感染症対策は、その代表格。税金を投入しているからこそ、民間の病院とは異なり採算にとらわれず、都民に必要な医療を提供できるとも言えます。
健康長寿医療センターの惨たんたる実態は、コロナ危機を乗り越えるためにも、独法化方針を見直すことを強く求めています。   (長沢宏幸)