「しんぶん赤旗」首都圏版に上・下2回にわたって掲載された「独立行政法人化/どうなる都立病院」の記事を紹介します。


東京都民の命と健康を守っている都立病院が大きく変えられようとしています。今まで都が病院運営に直接責任を負っていた「直営」から、「地方独立行政法人」(独法)に運営を移す準備が急ピッチで進んでいるのです。独法化は、住民の健康や医療水準にどんな影響があるのでしょうかー。(吉岡淳一)

独立行政法人化 どうなる都立病院(上)

感染症対策 使命担って

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「新型コロナウイルス陽性、あるいは疑いのある人を受け入れることができるのは、都立病院ならではの役割です」。新型ウイルスの対応に追われる中、都立病院関係者はこう話します。
都病院経営本部によると、都立および都保健医療公社病院の中で感染症指定医療機関は、墨東・駒込・荏原・豊島の4病院。病室の空気が外に漏れないよう気圧を低くする装置を備えウイルス拡散を防ぎ、専門のスタッフが対応しています。

非採算分野
都立病院が感染症病床を持っているのは、明治政府がコレラや赤痢などの伝染病対策を行ったことにさかのぼります。その流れをくみ、難病・周産期・小児・災害医療など、極めて重要であるのに民間病院では採算をとるのが難しく安定的に医療サービスを提供するのが困難な分野を「行政的医療」と位置づけ、都立病院がその使命を担ってきました。
ところが小池百合子知事は昨年末、都議会の所信表明で、すべての都立8病院と公社6病院について独法化を一方的に宣言。都は2020年度予算案に独法匕準備のために6億円を計上しました。

患者負担増
独法化されると病院運営は、経営主体が都から独立行政法人に移って経営効率化が強く求められます。
09年4月に発足した都立病院・独法化第1号の健康長寿医療センター(板橋区、旧老人医療センター)では、ベッド数が161床減らされ550床になりました。入院日数の圧縮など医療提供の低下が懸念されています。
患者負担も増加。老人医療センター時代は差額ベッドの徴収が原則ありませんでしたが、健康長寿では141室で徴収するようになり、さらに入室時に10万円の保証金を支払わなければなりません。
「健康長寿医療センターの過去・現在・未来調査委員会」の住民アンケートには「差額ベッドしか空いてない。お金があるかないかで医療の選択肢が狹まるのはつらい」(50代女性)、「貴重な老人専門なのでお金がかからないようにしてほしい。独法から戻してください」(60代女性)という声が寄せられています。
健康長寿医療センターの元看護師は「看護師は全体が若くなる一方、30代以上の経験者を優遇しないことで離職者も増え、看護の質低下につながるおそれもある」と指摘します。
「都立病院の充実を求める連絡会」の調べによると、同病院の看護師賃金は、20代から30代前半のわずかな期間は健康長寿が都立病院平均を上回るものの、それを過ぎると逆転し、最終的に都立より月平均約3万円下回ります。

独立行政法人化 どうなる都立病院(下)

予算の0.5%で命を守る

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都立病院が都予算の一般会計から400億円繰り入れしていることについて、一部のメディアや都議が「赤字」と論じていることについて、実態を見ていない議論だと批判があがっています。
外科医で医療制度研究会副理事長の本田宏さんは「消防署、警察、小中学校は赤字ですか。赤字だからといって民営化し国民負担を増やし、無くしていいものではありません。都立病院も同じです」と指摘します。
日本の病院経営が困難な背景に、医療費の公定価格(診療報酬)が安く抑えられている問題があると本田さんは説明します。「日本で盲腸の手術をすると手術料・入院費用含め30万円ほどなのに対し、欧米では100万円、200万円かかります。逆に薬の値段は日本が世界で最も高い。安い手術代に高い薬や医療機器代を支払えば病院が″赤字″になるのは当たり前で、そのために補填(ほてん)が必要です」

赤字を否定
400億円が何に使われたのか、都自らが明らかにしています。2017年度決算によると、繰り入れ394億円の内訳は、精神病院運営24.4%、周産期・小児医療17.7%、救急医療16.4%、がん医療15.1%、難病・膠原(こうげん)病医療13.2%、感染症・結核医療1.5%。
日本共産党の原田あきら都議は、昨年12月の都議会代表質問で「都立病院は小児・周産期・障害者・難病・災害医療など都民に必要な医療の提供を使命としている」と述べ、400億円の繰り入れについて都の認識をただしました。
これに対し堤雅史病院経営本部長は、採算の確保が困難な行政的医療を提供するための不可欠な経費とし、「地方公営企業法などにもとづき一定のルールを定め算定を行っており、いわゆる赤字補填ではない」と答弁しました。

知事選視野
病院利用者や医療関係者、識者による独法化ストップの運動が各地で強まっています。
「都立病院の充実を求める連絡会」の氏家祥夫代表委員は「独法という言葉が庶民にとってなじみが薄いので、分かりやすい宣伝物作成や、都立病院は都の一般会計予算のわずか0.5%(400億円)の繰り入れで都民の命を支えていることなどを伝えたい」と語り、今夏の都知事選の重要な争点にもしていきたいと意気込みます。

都議会開会前日の18日、新宿駅西口で各分野の団体による「都民のいのちを守れ」の共同宣伝がありました。
公社・荏原病院看護師の大島君代さんは、100年以上の歴史がある同病院では、伝染病対策のノウハウもしっかりしており、新型ウイルス関係の受け入れも職員が懸命にとりくんでいると報告。「都立時代は他の病院と看護師を融通しあっていたが、公社移行後は単独で確保しなければならず慢性的な人手不足に陥っています。今度はすべての病院を独法化させる小池知事のやり方は許せません」と訴えました。

(「しんぶん赤旗」2020年3月6・7日付より)