存在意義問われる人事院 国税局の障害者排除問題

 東京国税局に勤務していた原口朋弥さんがパワハラ起因のうつ病を発症した後、パワハラを告発したなどを理由に反復して人事評価がD(最低評価)とされ、2021年6月に分限免職処分(解雇)を受けたとして人事院に審査請求を行なっていた問題で、人事院が異例の長期にわたる審理後の今年3月27日に「処分承認」と判定をしたことに注目が集まっています。労働者としての権利が制限される公務員の身分保障の仕組みである人事院制の存在意義が問われています。原口さんの弁護団の2人に聞きました。

不十分な検討も追認の記載
 民間企業の労働者には団結権、団体交渉権、争議権の労働三権が保障されています。一方で公務員は職務の性質から何らかの制限を受けており、警察、消防、海上保安庁、防衛省、自衛隊員などは全面的に否定されています。
 その他の公務員は団結権、団体交渉権は有するものの、争議権は認められていません。海外のようにストライキによりごみ収集が行われないなどという事態が生じないのはこのためです。一方で職務の公共性、行政の継続性や中立性の維持、政治介入を排するために公務員の身分は厳格に保障されています。
 本来は民間企業の労働者のように業績や評価によって給与が大きく変動することはなく、解雇(分限免職)されることもほとんどありません。そのため失業保険の対象外であり、分限免職となると退職金もなく路頭に放り出されてしまいます。
 国家公務員が意に反する不利益な処分を受けた場合は人事院に対し、地方公務員は人事委員会または公平委員会に対して、行政不服審査法に基づく不服申し立てが可能です。人事院や委員会は審査の結果に基づいて、処分の修正や取り消しが必要とされた場合、職員が処分によって受けた不当な取り扱いを是正する指示をしなければなりません。
 こうした前提を大きく揺るがせる事件が東京国税局における今回の問題です。

処分にお墨付きか
 同局職員の原口さんは在職中、パワハラ起因によるうつ病を発症し、通院・加療する中でADHD(注意欠陥多動性障害)が発覚。2017年に精神障害者福祉手帳の交付を受けています。中途障害者となった原口さんに対し本来、東京国税局は「障害者雇用促進法」に則って合理的配慮のもとで勤務が継続できるようにしなければなりませんでした。また2018年、人事院は各省庁に障害者雇用に関する通達を民間に先立ち発しています。
 しかし同局は原口さんの在職中、同法に則った合理的配慮をしませんでした。人事院の審理では、「障害特性に合わせた他部門への異動の検討」などの合理的配慮義務への対応も一切なく、国税局が「分限免職処分回避努力義務」という文言さえ知らなかったことが明らかになっています。
 弁護団の浅野ひとみ弁護士は「人事院は、国税局が他部門への異動について具体的に検討した客観的な証拠がないにもかかわらず、他部門への異動は検討したと事実認定し、分限免職処分を行なったことを認めた」と指摘。また同弁護団の加藤健次弁護士は「人事院は、今回の分限免職処分にあたり(国税局)の考査課が免職時判断事項を十分認識していなかったことを認めている。これからは理解して徹底してやるようにと記述があり、人事院が問題だと思っているのに今回は処分を承認としたように読み取れる」と問題を告発しています。
 さらに、人事院の審理に際して国税局が「原口さんの分限免職について、事前に人事院人材局に相談して問題なし」とのアドバイスを受けているとしたメモを証拠として提出しました。人事院が「国税局が障害を理由に、原口さんを分限免職処分にすることに対するお墨付き」を与えているようにさえ見えます。実際にメモ通りの処分が下されています。
 人事院は「その存在意義に立ち返り国家公務員の身分を守る立場をとるべき」(加藤弁護士)で、民間の手本になるべく障害者が安心して働ける国家公務の現場づくりの推進に寄与しなければ不要論に抗することはできません。

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