東京・調布 外環道陥没の地盤補修工事 転居・心労…住民「犠牲はお断り」 

騒音は低周波音 耐え難い

東京外環道(東京都練馬区-世田谷区間)の地下トンネル建設により2020年10月に地表の陥没事故が起きた調布市の住宅街で、事業者の東日本高速道路(ネクスコ東日本)が「ゆるんだ地盤を補修する」として住宅の解体を進めています。住民からは「陥没に続く補修工事で、住民か犠牲になるのはお断りだ」と怒りの声が上がっています。(東京都・川井亮記者)

住民生活考えず

地盤補修用のセメントを輸送するため設置されたプラントヤード=東京都調布市(しんぶん赤旗提供)

 陥没が起きた一帯では、外環道トンネルに沿って流れる入間川を覆うように、9本のパイプが南北に長さ数百メートルにわたって延びています。ゆるんだ地盤に注入するセメントを輸送し、代わりに泥を排出するため事業者が設置したものです。

入間川にかかる都橋では、道路上にパイプを置いたために道路の高さが約30センチもかさ上げされ、急な斜面ができました。橋を母親と自転車で渡ろうとした子どもが、斜面を登れず立ち往生し、母親が「降りないと渡れないよ」と声をかけます。

橋の前の家に住む女性は 「事業者から橋を4月にかさ上げすると聞かされ、その間に提供された宿舎で10日間過ごして自宅に奘ると、想像以上に急な坂ができていた。椎間板と股関節の病気があるので、橋を渡るのがつらくなった」と話します。

事業者側からは「斜面を緩やかにする」と言われたものの、今度は自宅の門扉が開閉しづらくなると言います。

「化学物質の過敏症もあり、(工事による)アスファルトの臭いで関節が痛んだり、体がだるくなったりする。住民の生活を考えずに、平気で工事を進めてしまう姿勢が分からない」と語りました。

璧や敷地に亀裂

この地域では20年10月、地表の陥没と3ヵ所の地下空洞が発見されました。壁や敷地のタイルに亀裂が入った住宅も、多数見つかりました。

事業者はトンネルエ事が要因であることを認め、地盤補修を行う方針を示しましたが、補修範囲はトンネル直上の幅16メートル、長さ220メートルの地域に限定。住民らは「地盤沈下はトンネル直上だけでなく、広範囲で起こっている。補修範囲の線引きは恣意(しい)的だ」と批判します。

地盤補修は、入間川上流側に設置したプラントヤードから輸送したセメントを土中に噴射し、直径4メートルの円柱状の「地盤改良体」を約220本造る予定です。プラントヤードや2カ所の中継ヤードには、セメントや泥を送る高圧コンプレッサーやポンプを設置。7月中には補修工事を始めるとして、家屋の買い取りや解体も進めています。

6月17日、住民でつくる「外環被害住民連絡会・調布」が記者会見し、「機械の騒音や低周波音におびえ、平穏な生活は眥のことのようだ。不安や心労から体調を崩す人も多い。私たちはなぜ、こんなことを耐え忍ばなければならないのか」と訴えました。

今月6日に日本共産党の田村智子副委員長・参院議員(衆院東京比例候補)、宮本徹衆院議員・東京比例候補、吉良よし子、山添拓両参院議員らが行った現地調査では、地盤補修で転居を余儀なくされた女性が 「事業者は補修と平気で言うが、一人ひとりにとって家を売ることがどんなに大変でつらい思いをするか、分かっているのか」と語りました。

トンネル中止を

入間川を覆って設置されたセメント輸送用パイプ(右側)を前に出す丸山重威さん=東京都調布市(しんぶん赤旗提供)

外環道トンネルの建設で地盤がゆるむ危険性は、沿線住民らが陥没事故以前から指摘してきた問題です。

大深度(地下40メートル以深)地下利用の無効確認を国に求めた東京外環道訴訟(2017年12月提訴)では、トンネル建設による陥没事故や地盤沈下の危険性を繰り返し告発しました。

都議会では共産党の原田あきら都議が17年11月の環境・建設委員会で、各地のシールドトンネル建設で事故が頻発している問題を指摘。「東京外環道は直径16メートルだ。シールドエ法で事故が各地で頻発し、時として大規模な地盤沈下や陥没、死者が出る重大事故につながっている事態をどう考えるのか」「シールドエ法が大深度化、大規模化する中で何が起きるか分からない状況だ」と、外環道の中止を求めていました。

この地域で40年間暮らしてきた被害住民の一人で、著書でも外環道トンネルによる陥没などの危険を指摘してきた丸山重威さんは「外環道の陥没で、積み上げてきた生活を奪われ、心労が重なり、体調を壊す人が出ている。このままでは原発事故のように関運死すら起こりかねない人権侵害だ。トンネル建設は中止を決断すべきだ」と話しています。

(「しんぶん赤旗」7月12日付より)