杉並区の岸本聡子区長は1月31日、2023年度当初予算案(一般会計2107億円)を発表しました。就任後初の本格予算で、2月9日開会の区議会定例会に関連条例とともに提案します。前区政の区立施設再編整備計画で決まっていた統廃合計画を一部見送るなど、区民との対話と区政への区民参加を重視する姿勢を可視化するものとなっています。
杉並区 23年度予算案を発表
民間委託を検証 計画改定に反映
「公共施設やサービスは全ての区民の共有財産」。岸本区長は記者会見で、改めて持論をのべました。岸本区長はこの考えをもとに、前区政のもとで決められた子どもや高齢者、住民が利用する区立施設を統廃合する区立施設再編整備計画などについて、「民主的で持続可能な運営を進めるうえで、民間委託等の手法を検証する」として、すでに指定管理事業者や従事者、区民へのアンケート調査を行っています。
23年度予算ではさらに、当初想定していたサービス向上やコスト削減といった効果、公共財を管理運営する人たちの安定した雇用などについて検証作業を進め、「区政経営改革推進計画」改定に反映させると表明。その間、進行する施設の統廃合については、「一旦立ち止まる」とし、緊急性や進ちょく状況などから「立ち止まることが困難」な取り組みについては昨秋、例外的に整備を進めるとしていました。
今回、提案を見送ったのも、「立ち止まることが困難」と判断した施設で、「(仮称)コミュニティふらっと本天沼」の整備予算と、それに伴う3施設(本天沼、天沼両区民集会所、ゆうゆう天沼館)の廃止条例案です。しかし説明会で「これまで通りの目的、頻度で利用できなくなるのでは」といった利用者からの不安の声が少なからずあったことから、定例会に予算や条例案は提出せず、不安が解消されるよう対話を継続します。
一方、同じく例外的に整備を進めるとしていた「子ども・子育てプラザ下高井戸」は、今年9月オープンに必要な経費を計上。これに伴い廃止する下高井戸児童館の存続を願う声に応え、対話は継続。すでに開設した他地域のプラザに対話で生まれた「小学生タイム」の導入など、開設後も保護者と子ども、地域住民らが運営について協議する仕組みを検討します。
気候区民会議 開催へ準備
予算案には他にも、道路計画の見直しに向けた対話集会、無作為抽出や公募で選ばれた区民と区長が様々な行政課題を膝詰めで語り合う「聴っくオフ・ミーティング」を10回開催する予算を盛り込みました。
また、区民の意見を予算編成の一部に反映させる「参加型予算」のモデル実施に向けた経費を計上。24年度予算編成の過程で、森林環境譲与税基金の使途をテーマに、参加型予算の手法を試行的に導入します。
気候変動問題を学び、議論する「気候区民会議」の開催に向けて、他自治体の先行事例や専門家の意見聴取など、検討を進めます。岸本区長は「ゼロカーボンと気候正義の実現に貢献する自治体としてのリーダーシップをとる環境都市を目指す」とし、「とくに若い人たちに自分事として区政と歩んでほしい」と語りました。
就学援助 対象を拡大
「子どもの権利条例」の制定に向けた検討を始めます。子どもから直接、意見聴取する仕組みを工夫するとし、子どもの貧困の実態調査の経費も計上。区営住宅の入居など性的少数者のカップルを制度利用の対象にするなど、不便を改善する「パートナーシップ制度」の4月導入のための条例案と関連予算も提出します。
岸本区長は「コロナ禍や異常な物価高から区民の命と暮らしを守るために必要な予算を計上した」と強調。学用品費や給食費など就学に必要な経費の一部を援助する「就学援助」の支給対象を、生活保護基準額の1・2倍から1・3倍に拡大します。対象の子どもが200人ほど広がると見込んでいます。
学校給食費の高騰分を新年度も公費で負担し、保護者負担を据え置く経費を計上しました。給食費無償化については「前向きに議論を進める」とし、「さまざまなやり方を検討したい」と語りました。
コロナ対策として、杉並区受診・相談センターの運営や医療機関を支援する経費を計上。原油・物価高騰対策として、区内公衆浴場への燃料費補助、福祉施設への食糧費・光熱水費の補助は、今年度に続き実施します。