ベネッセの英語スピーキング 都教委トラブル隠し

報告書に事例多数 「ゼロ」の偽り判明

 

東京都教育委員会が、来春の都立高校入試に活用することを決定した中学校英語スピーキングテスト(11月に実施予定)。昨年の確認プレテストでトラブルが多発していたにもかかわらず、一切公表されず、まともな対策もなかったことが明らかになりました。(染矢ゆう子)

都立高入試に「活用」

さまざまなトラブルが記されていたのは「中学校英語スピーキングテスト」最終報告書(2021年度)です。同テストを実施する受験産業大手のベネッセが、3月に東京都教育委員会に提出していたもの。同テストに懸念を持つ都民が情報開示請求して先月28日に入手。同日、インターネット上に公開しました。(写真)

これまで、研究者や教育関係者らでつくる「入試改革を考える会」(大内裕和代表)が「21年度のプレテストにおける事故やミスのデータを出してください」と求めていました。ところが、都教委はデータを公表せず、「機器の不具合が原因で録音ができなかったケースは生じていません」と答えていました。日本共産党都議団に対しても、同趣旨の回答を繰り返しています。

本紙の取材にたいして、都教委側は同報告書をこれまで一切公表していなかったことを認めました。“トラブルゼロ”については、受験生の対応に問題があったとしました。

ネット上で公開された同報告書には、音声トラブルや事故、ミスなど23件記載されていました。都教委が「生じていない」とした「機器の不具合が原因で録音ができなかったケース」もありました。

「入試改革を考える会」の吉田弘幸さんは「都教委がうそをつき、意図的に隠蔽(いんぺい)してきたことになる」と憤っています。

保護者「中止しかない」

中止を求める声が高まる、都立高校入試の中学校英語スピーキングテスト(ESAT―J)。昨年の確認プレテストでは、試験監督が誤って「試験開始」ボタンを押したため、別室受験になってしまった生徒が泣きだし、録音できなかった事例も。試験終盤に防音用の耳あてと一緒にイヤホンも外れ、付け直している間に試験が終わり、最後の問題に解答できなかった生徒もいました。

事故やミス深刻

最終報告書は都議会や「都立高校入学者選抜検討委員会」にも示されていませんでした。

トラブルは録音だけではありません。ESAT―Jは前半と後半に分かれて行い、漏えいを防ぐため受験生を長時間拘束します。報告書では、昨年のプレテストで「前半終了時に、誤って解散した」「受験票を教室ではなく、玄関で確認したため、試験開始が10分以上遅延した」など、深刻な事故やミスもあったと記されています。

ESAT―Jは、受験生がタブレットを操作して試験を始めます。一度始まったら、止まることも戻ることもできません。こうした機器の準備やテストの受け方の説明が「わかりやすかった」と答えた生徒は、教員のいる中学校の会場では9割以上だったのに対し、外部会場では71%にとどまりました。

説明の不備などによって画面に触ってしまい、早く始まってしまう“フライング”の生徒は、別室で受験することになります。プレテストで別室受験となった生徒は880人。受験した64000人の1・4%に上りました。タブレットやイヤホンなど機器の不具合を訴えて、別室受験になった生徒も187人いました。

機器不良などのため、試験開始時間の遅延も多くの会場でありました。2分以上遅れが137教室。10分以上遅れは53教室に及びました。

時間延長のある特別措置の生徒に「別の教室の生徒の騒ぐ声で、最後の出題が聞こえず満足に試験を受けられなかった」例がありました。

プレテストのほとんどは生徒が通う中学校で行われました。しかし、EAST―Jは都立高校で行われます。トラブルや事故の激増が予想されます。しかし、ベネッセが出した対応策は、開場を30分早めることと、「時間厳守の重要性を研修で伝える」ことだけ。

日雇い試験監督

試験監督はプレテスト同様、不慣れな日雇いの派遣やアルバイト。会場責任者も日雇いで募集されています。募集している派遣会社に記者が聞くと4日現在、いまだにほとんどの会場で監督や責任者が必要人数に足りておらず「10月中は募集を続ける」といいます。

別の派遣会社で働く埼玉県の男性は「研修といっても、同封された回答を見ながらウェブ上で問題に答えるというだけです。人が集まらない場合は当日に目を通すこともある」と語りました。

「スピーキングテストに反対する保護者の会」は、都議会の各会派を回り中止を訴えてきました。9月29日に都庁を訪れた東京都小金井市の中学生の保護者はいいます。「都教委が隠してきたうそが発覚し、トラブルが多数あったとわかった。高校入試は子どもの人生にとって1回しかなく、事故を隠したり、過小評価したりしないでほしい。ベネッセをもうけさせるだけの、ずさんな計画を中止させたい」

法的根拠なく入試に使うな

党都議団が追及

 日本共産党都議団の追及で、ESAT―Jには法的根拠がないことが明らかになっています。

ベネッセ総合教育研究所長が委員を務める「都英語教育戦略会議」(2013年設置)が「最終答申」で英語スピーキングテストの入試活用を提言したことを“根拠”に、都教委が「入学者選抜英語検査改善検討委員会」を設置し、進めてきました。

9月の都議会でアオヤギ有希子議員は、都が私的に集めたメンバーで検討会が開かれた場合は諮問や答申、提言をすることができないとのべ、「都英語教育戦略会議」は提言を出せず、「実施する根拠はない」と指摘しました。

また、斉藤まりこ議員は代表質問で、区市町村教委や公立中学校に行政調査しかできない都教委が、入試に活用することでESAT―Jを事実上強制することは「教育基本法が禁じる不当な支配だ」と指摘しました。都教育長は、不当な支配ではないと、答えることはできませんでした。

 

(しんぶん赤旗2022年10月8日付より)