対話が生む新しい地方自治 杉並区 岸本聡子区長が就任会見

 先の杉並区長選(6月19日投票)で市民団体が擁立し野党が支援して初当選した岸本聡子氏(47)が11日、大勢の市民が出迎える中、初登庁しました。その後、臨んだ会見で公約に掲げた「対話を大切にする区政」の実現へ意欲を示しました。会見で語った新しい区政への抱負などを紹介します(要旨)。

「勇気与えるよう懸命に」

幅広い 住民の声聞く
 区民の声を区政に生かしてほしいという多くの人に支援されて当選しました。杉並区民57万人の命と暮らしを守るという責任と使命を持ち、常に区民のための区政を行っていきたい。僅差(187票)で当選したことを重く受け止め、私に投票されなかった区民の声や思いをより意識的に聞き、対話と理解を深めたい。幅広い住民の提案を聞くことに最大の努力をしていきます。
 現在、物価高による生活への打撃、猛暑、そして新型コロナ感染者急増という3つの課題の中で、区民の暮らしや健康への懸念が高まっています。これらを緊急の課題と位置付け、自治体としてできることを最大限取り組んでいきます。
 行政職、政治職も初めての私にとって大切なことは、地域の課題や行政について多方面から、そして職員から学ぶことだと認識しています。「対話と共有」は、住民と行政との関係はもちろん、議会との関係を含め杉並が物事を進める原則とします。住民参加を、明確なビジョンに沿って進めていきます。杉並区を日本で一番、透明性と説明責任が高く、住民参加が活発な自治体にしたい。

ビジョンに 優先順位
 気候変動問題に野心的に取り組みます。例えば23区で自転車が一番乗りやすい街にしたい。こういったことが住民にも分かりやすい指標の一つになるのではないか。ジェンダー平等も進めていきます。
 区民の声を聞く集会をいち早く開催します。毎回テーマを設定し、申込制と無作為抽出した区民から希望者を募るハイブリッド形式でバランスの良いデザインにしたい。年間8~10回の開催を予定しています。
 公約の中で掲げた「さとこビジョン」は、私を擁立した住民の要求から出発し、共同で練り上げてきました。しかし、これを一気に実現しようとは考えていません。区がすでに着手していること、私の情報や認識不足も含まれていると思う。
 大切なことは、今までの杉並区の歴史、達成してきたこと、計画を十分に考慮して「さとこビジョン」の中で優先順位、緊急性、実現可能性の仕分けを行い、決めていくことです。行政の継続性は、安定した区民生活の要です。良いものをしっかりと残し育てながら、修正が必要な部分は職員や議会と協力して行っていきます。

区施設、職員は財産
 選挙で公共の再生を訴えてきました。パンデミックを世界同時に経験し、医療や保健といった公共の中枢的機能が弱体化していること、そこで働くエッセンシャルワーカーがコストとして切り捨てられたり、圧縮されてきたことが明らかになった。
 私は「区立施設と区の職員はコストではなく、杉並の財産です」と訴えてきました。例えば会計年度任用職員の待遇改善に積極的に取り組んでいきたい。人を大切にすることが区民に良いサービスを提供する大前提だと考えています。

地方政治に希望を
 杉並区で大きな変化が起きていることが多くの人に勇気を与えたり、希望になっていることもあると思っています。地方自治の場から命と暮らしを守る政治、草の根の民主主議、議会での良い議論で区民のことを常に第一に考えた地方政治がやっていけるということを伝え続けたい。
 (議会運営など)大変なことがたくさんあることは重々承知です。しかし、よい杉並区をつくる、子どもたちを守るということでは、杉並区に住んでいる全てのみんなと一致できる。対話を中心にしていく新しい地方自治のあり方が、みんなに勇気を与えられるよう一生懸命に頑張ります。

公共サービス再生が専門
岸本新区長の横顔

 岸本氏は大学卒業後(1997年)、国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」に就職。気候変動枠組み条約(COP3)に向けて、若者の全国的な温暖化防止キャンペーンなどを行いました。2001年、長男を出産後、パートナーの国であるオランダ・アムステルダムに移住。そこを本拠地とするNGO「トランスナショナル研究所」に所属し、世界各地の新自由主義や市場原理主義に対抗する公共政策や水道政策を調査、研究してきました。
 報告書には「再公営化という選択―世界の民営化の失敗から学ぶ」「公共の力と未来―世界の脱民営化から学ぶ新しい公共サービス」などがある他、「水道、再び公営化!―欧州・水の闘いから日本が学ぶこと」(集英社)などの著書も多数あります。
 記者会見で岸本氏は、区長選で争点となった区施設の民間委託について、「(費用対効果で)民営化の方が優れているという学術的、実体的事実はないというのが、今の調査の最前線です」と指摘。利用者、働く人の視点やコスト面から検証する必要性を強調しました。
 児童館などの区立施設の再編計画については「計画ありきではなく、利用者をはじめとした幅広い区民や現場の職員の声を丁寧に聞き、これまでの取り組みを検証した上で、今後の進め方を検討していく」としました。
 また「新自由主義の限界というのが一番見えるのは、地方自治、地方経済だ」「気候変動問題は新しい産業をつくり、知見や技術、仕事を生んでいくという大きな可能性のある分野」だとも語り、気候危機対策を進めることで地域経済も活性化させる街づくりを進める考えを示しました。

改憲阻止へ声あげ続ける
参院選後初の女性アクション

 総がかり行動実行委員会は14日、有楽町駅前で参院選後初となる「憲法9条改憲NO!ウィメンズアクション」に取り組みました。大雨が降る中でも集まった参加者が、参院選結果に触れながら、改憲阻止やジェンダー平等に取り組む決意を訴えました。
 「憲法変えてる場合じゃない!女性たちみんな、つながろう」の横断幕を持ってアピール。司会を務めた同実行委員会の菱山南帆子さんは、安倍晋三元首相の銃撃事件について、「許されない暴力行為」と批判。そのうえで、岸田政権がこの日、国葬を行うと表明したことについて「おかしいことには、声をあげていく」と表明しました。
 参院選結果について菱山さんは「共闘しないと勝てないことを、悲しい形で示した」と指摘し、「選挙が終わっても、変わらず声をあげていこう」と呼びかけました。
 野党から、日本共産党の紙智子参院議員、参院選で再選したばかりの社民党の福島瑞穂党首が参加。紙氏は「選挙戦で重視した政策で、改憲は少なく、国民は改憲のお墨付きを与えたのではない」と強調。ジェンダー平等や、暮らしの支援などを政府に進めさせるため、「国民の運動あってこそだ。みんなで声をあげよう」と訴えました。
 市民のリレートークで、新日本婦人の会の米山淳子会長は、「東京選挙区では、改憲を進めようという勢力と、急がないという勢力が、半々に議席を分け合った」と指摘。「暮らしの大変さ、コロナの急速な拡大への対策こそ急がれる。憲法を変えている場合ではありません」と求めました。

 日本共産党が7月15日、創立百年を迎えました。ツイッター(短文投稿サイト)には、党員やサポーターの人たちなどから100歳の誕生日を祝うケーキの画像など、祝福の投稿が相次ぎました▼日本の政党で唯一、戦前戦後を一つの名前で活動しているのが日本共産党です。戦争中、各党は自ら党を解散して、「大政翼賛会」に合流し、侵略戦争を推進。その反省から、戦後は名前を変えて再出発しました▼その戦前の日本共産党員のたたかいを描いた映画が、今年春に公開された「わが青春つきるとも―伊藤千代子の生涯」です。千代子は、社会の矛盾に疑問を持ち、大学の社会科学研究会で学ぶ中で、郷里の製糸工場での女性労働者たちの争議支援に奔走。日本共産党に入党して反戦や人民主権を掲げてたたかい、治安維持法下の弾圧で24歳で亡くなります▼日本共産党の田村智子副委員長・参院議員は、1月の千代子を語るネット企画で、「(女性たちの)力強い運動が戦前にもあったのは、私にとっての希望」と語りました▼映画は終盤、千代子らのたたかいが日本国憲法に実り、戦後に引き継がれることを描きます。軍事費倍増や九条改憲の大合唱が新たな「翼賛政治」の流れが生まれるもと、今に生きるたたかいの歴史です。