離島の医療は(4) 都立病院のままがいい

式根島

診療所を案内する綾亨村議=東京都新島村

 東京港から大型客船で11時間、高速船で3時間かかる式根島(新島村)には、診療所が1カ所あり、医師1人、看護師2人が常駐しています。医師は自治医大から派遣され約1年交代。看護師は村の正規職員として配置しています。

 村は、患者本人と付き添い者それぞれにたいし交通・宿泊費として最大8千円の補助(利用回数制限あり)をしています。

 レストランを夫婦で営む男性(77)は7年前、深夜に突然胸が苦しくなり、島の診旅所へ駆け込みます。診断を受けると、ヘリによる救急搬送が必要だと医師が判断。男性の妻も同乗し、深夜の海上を都心部へと急行します。

 男性は「ヘリに運ばれた記憶も無く、気がついたら広尾病院たった」と振り返ります。広尾では自分の大腿(だいたい)の血管を使って、心臓の周囲を流れる冠動脈のバイパス手術をし、一命をとりとめました。

医療費負担増も

 都立病院の独立行政法人(独法)化について「半官半民みたいになると医療費の負担が増えないか心配。100%都立のままに」と語ります。独法化議論で都が、海外の富裕層を対象にした医療ツーリズムを検討していたことについても「命を預かる場所だから金もうけ主義でなく庶民を救ってくれなくては困る。独法化には反対」と話します。

 スーパーを営む別の男性(76)は1972年、体調が急変した長男(当時8ヵ月)を救急ヘリで搬送しますが、空路途上に長男は死亡しました。

 男性は「何かあればヘリで都立病院へ飛んでくれる。今のまま存続するならいいけれど…」と、独法化に複雑な思いです。

 80代の女性は、今年5月ごろ激しい腹痛におそわれ、高速船で3時間、痛みで体を震わせながら我慢し続けました。東京港には娘夫婦と孫が出迎えます。孫は「ぱあちゃん、顔が真っ青だよ」と。広尾病院から同し都立の駒込病院へ。内臓系のがんでした。

 大島とくらべて都心に向かう交通の便が悪い島では、救急ヘリ輪送の拡大も課題です。

広尾病院は命綱

 式根島では2018年11月、「都立広尾病院を守る式根島の会」結成を兼ねた学習会が開かれ、独法化反対署名を広げてきました。綾達子代表は「学習会には人口530人(当時)の島で21人(4%)が参加する大盛況」と振り返ります。夫の亨さん(共産党村議)は「村の説明会に集まるのは30人から50人ほど。それと比べても村民の思いの強さを感じた」と話します。

 亨さんは議員になる前、よく村議会傍聴に出かけました。顔見知りの自民党村議に学習会で独法化への不安の声が出ていることを話すと、その村議は早速、そのことを村長にに問。村長は、都の病院として民営化しないでやってもらいたいと答弁しました。

 その後、都側か島しょ地域に独法推進の大キャンペーンを展開し、村長の発言も後退。綾さん夫妻は「広尾病院は島民の命綱。負けられない」と話します。(おわり)

 (白石光、吉岡淳一が担当しました)

(「しんぶん赤旗」2021年12月18日付より)