多様性認め合う街に 武蔵野市 住民投票に国籍要件設けず

 武蔵野市の松下玲子市長は19日開会の市議会定例会に、住民が直接その意思を表明する住民投票条例案を提出しました。投票資格者の4分の1の署名があれば議会の議決を必要とせず、市は住民投票を実施することになります。投票資格は3カ月以上市内に住所がある18歳以上で、国籍は問いません。松下市長は「豊かで多様性のある『市民力』がしっかり活かされるよう、市民参加や参画、協働の取り組みを進めたい」(施政方針)としています。

 同条例案は、あらかじめ制度の仕組みを決めておく「常設型」で、昨年3月に全会一致で制定した自治基本条例で別途、条例で定めるとされたもの(年表参照)。投票は賛成か反対かを問う二者択一の形式で行われ、投票結果を市は「尊重するものとする」と定めています。市によると投票結果には法的な拘束力はなく、市長や議会は結果を尊重しながら議論した上で市政に反映するかを決定します。松下市長は条例の意義について「二元代表制を補完し、さらに市民参加を進めるため」としています。

可決なら3例目
 市によると、国籍による要件を設けず、外国人に投票権を認める住民投票条例があるのは神奈川県逗子市と大阪府豊中市で、可決されれば全国3例目、都内では初となります。
 また、常設型の住民投票条例がある全国78自治体のうち43自治体が外国籍住民の投票資格を認めています(2020年12月時点)。その中で、在留資格を特別永住者と永住者のみに限定している自治体は28、それ以外の在留資格の人でも日本での在留期間が3年以上あるなどの要件を満たせば投票資格者に含めるのは13自治体です。

自民党が撤回迫る
 武蔵野市は外国籍市民も投票資格者に含める理由について①「自治基本条例」で外国籍の人も「市民」に含まれる②多様性を認め合い、誰も排除しない支え合いの街づくりを推進する必要がある③住民投票は市の重要なことを市民が考え、意思を表明する制度であり、同じコミュニティーで生活する外国籍の人も投票資格者とすることが必要―と説明しています。
 市が今年3月に市民2000人を無作為に抽出して行ったアンケート結果(回答509人)では、73・2%が外国人も投票資格者に含めることに賛成でした。
 日本共産党の橋本しげき市議は「住民投票は、住民意思を反映させる直接民主主義的な手段として積極的な意義を持つ。永住外国人よりもさらに広く、外国籍市民を日本国籍市民と同様に扱うことは、法の下の平等にかなう適切な考えだ」と、条例に賛成しています。
 一方、外国人に投票権を認めることに強く反発する勢力もあります。「武蔵野市住民投票条例を考える会」は、「有権者と異なる投票者による意志決定を反映することは二元代表制の補完にならず、むしろ議会の機能低下につながりかねない」などと主張、条例の廃案を求める陳情署名を進めています。市役所には右翼の街宣車が押しかける事態も起きています。
 地元の長島昭久自民党衆院議員は、同様の主張をツイッター(短文投稿サイト)などで展開。自民党市議も本会議代表質問(11月24日)で、条例提案の撤回を松下市長に迫っています。

賛成求め緊急声明
 大学教授や作家、弁護士ら有識者16人が「緊急声明」を発表(18日)。「自治体の住民の全てが地域の自己決定に参加するのが自治の原点」などとして、外国籍市民を投票資格者に含める住民投票条例に賛成すると表明。「条例案への意見の違いを越え」、右翼による暴力的行動の中止・排除へ力を合わせることを呼びかけています。
 日本共産党武蔵野市委員会と同市議団は声明(11月28日)で、「市民自治のまちづくりをさらに発展させる立場で、不当な攻撃をはね返し、幅広い市民のみなさんと力を合わせて条例案の成立のために力を尽くす」と表明しています。
 住民投票条例案は12月13日の市議会常任委員会の総務委員会で審議される予定です。

市政への市民参加が前進
高木一彦弁護士に聞く

武蔵野市
条例案

 武蔵野市の住民投票条例案について、同市の市民運動に長く関わってきた高木一彦弁護士に聞きました。

 市民運動に長く関わってきた身として、松下玲子市長の住民投票条例の提案は、ごく当たり前のものが、やっとできることになったのだと思っています。
 土屋正忠市長時代(1983年~2005年)、「行政改革」や「効率化」の名で、住民の声を無視して保育園や学童保育事業を後退させ、お泊まり保育や学童のキャンプを中止させました。愛情弁当を押しつけ、中学校給食の実施もしようとしませんでした。市内6カ所の市の出張所も統廃合されました。
 こうした市政に反発した市民が、市政に市民の意見を直接反映できるようにしたいと、住民投票制度を持つ市民参加条例の制定を直接請求しました。請求に必要な数(有権者の50分の1以上)をはるかに超える6672人分もの署名が集まりましたが、土屋市長は反対し、95年3月に市議会で否決されました。
 その後、市民参加を求める市民運動の広がりの中で、邑上(むらかみ)守正市長(05年~17年)が誕生し、10年以上にわたって自治基本条例の議論が行われ、邑上市長の後を受けた松下市長の下で自治基本条例が2020年3月に市議会の全会一致で成立しました。住民投票はこの条例の中に盛り込まれ、具体的なルールは別途条例で定めるとされたのです。
 今回の住民投票条例の提案は、このような武蔵野市政の流れからすれば当然のことです。自民党の市議が、「拙速だ」と、今議会への条例提案に反対することには強い違和感があります。
 また、直接選挙で選ばれる市長と市議会が住民投票の結果を尊重することを問題視する議論もあります。しかし、住民投票は18歳以上の住民の4分の1の賛成がなければ行われません。また、有資格者の2分の1以上の投票がなければ成立しません。市長や市議会が市民の意見をよほど無視しなければ、住民投票が行われることなどありません。二元代表制を補完する意味からも、その結果を尊重するのは当然のことではないでしょうか。

外国人参加問題視
ヘイトへの呼び水

 コミュニティーは国籍に関係なく住民によってつくられるもので、本来、住民投票は国籍で区別する必要のないものです。憲法上も何の問題もありません。より多様な住民の声を聞くことは民主主義の前進です。これからは外国の人たちの力も借りていく時代ですし、外国人の市民参加へのハードルを高くする意味はありません。
 外国人の参加をことさら問題視する議論は、ヘイトスピーチ(憎悪による差別的発言)の呼び水にもなりかねません。反対勢力による暴力的な威圧によって、市民が意見を言えなくなるとしたら恐ろしいことです。この12月議会でしっかり審議をし、決着をつけてもらいたいと思います。

一分

 新型コロナの新たな変異株オミクロン株が、世界に脅威を与えています▼ウイルスが人間の細胞に進入する際に、細胞の表面の受容体に結びつく役割を果たすスパイクタンパク質に約30カ所の変異があるというオミクロン株。感染力が強くなったり、ワクチンの効果を弱めることが懸念されています。世界保健機関は、警戒度が最も高い分類に認定しました▼オミクロン株の感染者は、すでにヨーロッパやオーストラリア、アジアでも見つかっています。急速な拡大は、感染力の強さを心配させます。日本政府は11月29日、外国人の入国制限を全世界に拡大することを決めました▼世界でも感染対策の再強化や、外国からの入国制限の動きが広がっています。ワクチン接種や治療薬研究の進展などで、遠くに希望の光が見え始めていたかのようだったコロナ禍の行方に、再び暗雲が立ち込めています▼デルタ株が猛威をふるった第5波では、重症者も自宅療養を迫られる深刻な医療体制の危機を招きました。現在は、新規感染が大幅に減った一方で、各地の食料支援などに並ぶ人の数は、過去最多を記録しています。新たな変異株の広がりを前に、デルタ株の教訓を踏まえ、医療と検査、補償を充実させる科学的な対策が求められています。

女性に対する暴力許すな
国際デーに吉良氏ら訴え

 1999年に国連が制定した「女性に対する暴力撤廃の国際デー」にあたる11月25日、ジェンダーに基づく暴力の根絶に向けた世界的な活動に共鳴し、東京でも衆院第2議員会館前でリレートークが行われました。
 日本婦人団体連合会(婦団連)など8団体、24人が参加。明るい未来を象徴するシンボルカラーのオレンジ色を身につけ、プラスターや横断幕を掲げて訴えました。
 婦団連の柴田真佐子会長は、女性の3人に1人が生涯で一度は暴力を受けるといわれていると強調。「法務省の法制審議会では性犯罪に関する刑法の改正に向け、話し合いが進められている。運動を大きく広げよう」と呼びかけました。
 日本共産党の吉良よし子参院議員が駆けつけ、連帯のあいさつ。「女性に対する暴力は日常社会に数多くある。しかし、それが暴力だと認識されていないことが、最大の問題」と力を込めました。
 東京母親大会連絡会の木原秀子委員長は、女性蔑視の根幹に明治時代から続く家制度が影響していると指摘。「女性の人権を大切にすることを、全政策の基本に据えるべき」と訴えました。
 全国労働組合総連合の舟橋初恵女性部長は、労働組合の立場から発言。「ILO(国際労働機関)で採択された職場でのハラスメントを禁止する第190号条約を、日本も批准すべき」と主張しました。
 農民運動全国連合会の藤原麻子事務局次長は、女性に対する暴力と飢餓の密接な関係を訴え。「政府は来年以降も26万㌧の減反を決めようとしている。誰も飢えない制度を求める」と声を上げました。