国と都 初の病床確保要請 応じないと病院名を公表

 厚生労働省と東京都は8月23日、改正感染症法に基づき、都内の医療機関に新型コロナウイルスの患者受け入れと専用病床の確保、医療従事者の派遣を要請しました。
 同法に基づく要請は、これまで大阪府や札幌市などが行っていますが、国による要請は初めて。「不急の入院・手術の延期など、通常医療の制限」も視野に入れて協力するよう要請しています。
 小池知事は「デルタ株の猛威に総力戦で臨む必要がある」と語りました。正当な理由なく従わなかった場合、より強制力のある「勧告」に切り替え、それでも従わない場合は病院名の公表ができるというものです。
 都内のコロナ対応の病床は、確保数6406床に対し、8月25日時点の入院患者数4112床。使用率64%に及び、医療のひっ迫は深刻です。
 ただ、現状でも各医療機関は必死の努力でベッドや人材をコロナ対応に充てており、病院名の公表という「脅し」による要請がどれだけ病床の確保につながるかは、不透明です。現場からは、医療を支える対応と、臨時の医療施設の設置など現場の実態に合った対策、感染症対策の基本に立ち返ることこそが必要という指摘が上がります。

国の責任で全患者に医療を
衆院厚労委 宮本議員が提案

 日本共産党の宮本徹議員は8月25日の衆院厚生労働委員会の閉会中審査で、新型コロナウイルス感染症の患者急増の中、症状に応じた必要な医療を全患者に提供することを原則に、国主導で人員確保・財政支援を行い、早急な医療体制の強化を迫りました。
 宮本議員は抗体カクテル療法について、外来・訪問診療、地域ごとの拠点、診断した医師がすぐに治療につなげる体制をつくることを提案。保健所が十分な対応ができないもとで、行政、医師会、医療機関一体で体制を構築できる支援を政府に求めました。
 宮本議員はまた、臨時の医療施設の設置を急ぐことと合わせ、空床となっているコロナ患者受け入れ病院の病床が活用できるよう、人材確保のための財政支援と応援の派遣を提起。田村憲久厚労相は「マンパワーを確保しながら、空床となっている病床の利用を進めていきたい」と答弁。
 宮本議員は臨時の医療施設などの人員確保について、強権発動ではなく、財政的支援、ワクチン接種への歯科医師のさらなる協力、全国的な法人への働きかけ、自衛隊の協力など国の責任を求めました。
 また、神奈川県実施の抗原検査キットの家庭配布を紹介し、全世帯への抗原検査キット配布を提案。政府・新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は、「検討に値する」と答弁しました。

都モニタリング会議
死亡者数増加を懸念

 「医療提供体制は深刻な機能不全に陥っており、現状の新規陽性者数が継続するだけでも、救える命が救えない事態が更に悪化する」―8月26日の都モニタリング会議で、専門家は新型コロナの爆発的な都内感染状況について、改めて強い危機感を示しました。
 大曲貴夫国立国際医療研究センター長は、「数週間にわたり、制御不能な状況が続いている」「医療体制は深刻な機能不全に陥っている」と指摘しました。
 また都内の新規陽性者数は、前回会議(19日)に比べ95%と減ったものの、検査数が1日1万5000件程度と少なく、陽性率20%超が続いていることから、「さらに多数の感染者が潜在している可能性もある」とし、不安な場合は保健所の判断がなくても受診し、検査を受けるよう勧めました。

若い世代が34%
 都医師会の猪口正孝副会長は、全療養者のうち入院患者は10%、宿泊療養者は5%で、「極めて低い水準に低下している」と指摘しています。29日現在、入院中4251人、宿泊療養2131人に対し、「自宅療養」2万1738人と「入院・療養調整中」1万1191人を合わせた患者数は約3万3000人にのぼっています。
 また、「自宅療養中」に死亡した事例もあげ、「深刻な事態となっている」と警告しました。実際、新型コロナが原因による死亡者は急増。都の発表によると、8月29日までの1週間で新たに87人(累計2466人)が死亡。このうち20代1人、30代2人、40代6人、50代21人と、若い世代が34%を占めています。

全国保団連 住江憲勇会長に聞く
現場支える対策こそ
臨時の医療施設が不可欠

 コロナ病床の確保のためにどんな対策が必要か、国と都の要請をどう受け止めているか、医療現場の実態に詳しい住江憲勇(けんゆう)全国保険医団体連合会会長に聞きました。

 ―国と都の病床確保の要請をどう受けとめていますか。
 新型コロナに対応してきた1年8カ月間で、医療現場は疲弊しきっています。そのなかでも、国民的な困難に対して、必死に医療を支えています。
 現状でも各医療機関は精一杯、コロナ病床を確保しようと対応しており、きちんとした支援と対策なしに要請だけしても、確保につながるか疑問です。
 ―感染者が急増する一方、コロナ病床が増えない現状はなぜでしょうか。
 診療報酬を極めて低く抑える政策のもと、病院の経営は厳しく、医療法人の利益率は平均2・7%ほどです。一般の経営では、利益率が最低7~9%ないと設備投資ができないと言われているのに、その半分以下です。このため、各医療機関は普段から、ベッドを満床にして、ギリギリの人員で経営しており、緊急事態に対応するベッドを増やそうにも、増やしようがありません。
 日本は小規模な医療機関が非常に多いことも影響しています。感染症患者の受け入れに必要なゾーニング(病原体汚染区域の区分け)など、不可能な施設がほとんどだからです。
 今回の国と都の要請で、病床確保を求めているのは、170ほどある入院重点医療機関と、230ほどある回復期支援病院です(表)。残りの病院や診療所などに要請しているのは、施設への人材派遣や、在宅医療への協力で、そこは分けてとらえる必要があります。
 こうしたもとでも、小規模でもなんとかコロナ病床を確保しようとしている病院や、発熱外来を担っている開業医が多くあります。
 厚労省は、そうした実態がよく分かっていながら、医療現場がコロナ患者を受け入れ可能なのに、受け入れていないように描くのは、とんでもないことです。
 ―コロナ対応の病床のひっ迫に、どんな対応が必要でしょうか。
 理想はコロナ対応の入院病床を増やすことですが、それには時間がかかります。
 医療機能を持った宿泊療養施設など、臨時の医療施設をつくって、そこで中和抗体カクテル療法などで重症化を防ぐ、それが待ったなしの課題です。こうした臨時的な施設であれば、開業医も協力しやすいでしょう。
 国や都は自宅療養の人たちへの往診体制を強化するといっています。医療現場は往診についても奮闘していますが、一人の医師が対応できる人数には限度があります。
 医療資源の活用の方法が、現場に合っていないと感じます。
 ―いま求められる対策は何でしょうか。
 菅首相は「明かりは見えてきた」と言っていますが、現場の実態からかけ離れています。
 安倍政権、菅政権とも、専門家の提言を、一顧だにせずに無視して、楽観的な推測による後手後手の対応を続けてきました。それが、今の事態を生んでいます。
 感染症対策の4つの原則、①徹底的・大規模な検査体制②国民に社会活動の制限を求めるのに伴う十分な補償③ワクチン接種の早期の徹底④政府の原則自宅療養という方針を撤回して早期の治療につなげること―に立ち戻るしかありません。
 診療報酬をきちんと引き上げて、医療現場を支える必要があります。「地域医療構想」で病床を削減する方針など、社会保障を軽視する新自由主義の政策が、国民の命を脅かすことがはっきりと示されました。それとの決別が不可欠です。

一分

 ダイビングの世界に、ヴァーティゴという用語があります。潜水中に視界不良や中耳内の異常で起こる、回転性のめまいです▼耳のなかの気圧を調整する耳抜きがうまく行かなかった時などに起こるというヴァーティゴ。上下や方向の感覚が失われ、パニックの中で、「明かり」と思った方向に泳いでいるうちに、より深く潜っていることもあるといいます▼コロナ対策で、菅政権による事態の楽観視と無為無策が続いています。8月25日の会見で、菅首相は、「明かりがはっきり見え始めた」と語りました▼感染拡大の深刻化により、東京の新規感染者は連日5千人前後を記録し、重症者数も300人に迫るなか、入院などができず、自宅で亡くなる事態も相次いで生まれています。専門家が「救える命が救えない事態となる」と危機感を強めているにも関わらず、首相が「見えないはずの明かり」に導かれて、楽観論のままに突き進んでいけば、国民はより深い命の危機に沈みこんでいくことになります▼憲法に基づいて、野党が要求する臨時国会にも、政府・与党は「見送る方針を固めた」と報じられています。今、必要なのは、臨時国会での徹底した議論で、これまでのコロナ対策を検証し、真の「明かり」を見出すことです。