検察庁法案 今国会の成立断念 数百万の発信 政治動かす

2020年5月20日 ,

人事に政権介入、削除を
緊急インタビュー 共産党 山添拓参院議員

 政権による検察私物化をねらう検察庁法改定案について、政府・与党は18日、今国会での採決を断念しました。数百万件ものツイッター(短文投稿サイト)上の「デモ」など、反対の声と野党の論戦が政治を動かした画期的成果です。ただ秋の国会へ継続審議するとしており、予断は許しません。国会論戦の先頭に立ってきた、山添拓参院議員(日本共産党・弁護士)に緊急インタビューしました。 (荒金哲)

 ―政府・与党が法案の採決を断念しました。
 もともと与党側は5月8日の1日だけの審議で、この法案を通すつもりでした。それが、週末にツイッターで400万件もの発信が広がり、まず野党を動かして、10日夜には野党4党首がそろって改定案反対の動画を投稿しました。野党が森雅子法相の出席を求め、実現させました。
 日弁連も繰り返し反対を表明し、元検事総長ら検察OBも反対の意見書を提出しました。朝日新聞や毎日新聞、東京新聞に加えて、産経新聞や日経新聞、読売新聞も反対の社説を出しています。
 強行採決を許さないという世論が、政府と与党を追いつめた結果です。
 ―この法案の問題点は。
 検察官は、近代国家の理念である三権分立のなかで、刑事司法の独立性にかかわる重要な役割を担っています。時には総理を起訴することもあるような立場であるだけに、政治との距離、政治からの独立が強く求められます。その検察官の幹部人事に、内閣が介入することを、法律上、正面から認めるもので、大問題の法案です。
 ―安倍首相は、検察官の定年を他の公務員と同じ65歳にするための法改正で、「恣意的な人事が行われることはないと断言したい」と14日の会見で述べていました。
 法案の中身を、分けて考えるべきです。一般の検察官の定年を63歳から65歳に引き上げることには、大きな反対があるわけではありません。
 その時に、特定の検察官にだけ、年齢の特例を設けて、役職を担わせる制度を盛り込ませた、そのことが問題です。
 全体は65歳が定年ですが、高検の検事長や地検の検事正は63歳で役職を降りるという制度になっています。しかし、内閣が認めた特定の人には、その職を担わせ続けられるとしている。さらに検事総長などは65歳以降も、内閣が認めれば、最長3年、職にとどまれるとしています。検事総長でいえば最大で68歳まで長期にわたり続投させることが可能です。
 ある検察官は引き続きやらせる、ある検察官はやらせないと、内閣の定めでできるようにする。そこが最大の問題です。

延長基準を示せず

 ―この間の国会審議で、見えてきた問題点は。
 どういう検察官については定年を延長させるのか、その基準が審議の焦点となってきました。
 基準について、武田良太担当相は「今はない」「施行日までに検討する」と答え、15日には森法相が「基準を示すのは困難」と言いました。
 首相が、内閣による恣意的な人事が行われることはないと言っても、基準自体が内閣の定めるものですし、その基準をもとに判断するのは内閣です。そもそもまともな基準を示すことができず、恣意的な判断にならざるを得ないでしょう。
 ―今年1月に、安倍政権に近いとされる黒川弘務東京高検検事長の定年が延長されました。今回の法案が、この人事に関係したものだという批判に対しても、安倍首相は無関係だと主張していました。
 実際は、黒川さんの人事と、この法案は大きく関係していることが、私が国会で示したパネルではっきりとわかります。
 現在の検察庁法には、定年後に役職にとどまれる仕組みはありません。黒川人事を実現するために、今年1月17日に法解釈を変更したと政府は説明しています。そして、その1月17日以降、今回の法案の中身も大きく変更されました。
 当初の法改正案は、検察官は65歳で退官し、次長検事や検事長の役職は63歳で辞めるという、シンプルな数行の内容でした。それが、1月17日以降、関連の項目が一気に増えて、「内閣が定めるところにより」定年の延長を認めるといった中身が入りました。
 黒川人事のための解釈変更がなければ、今回の法案はなかったということです。さらに、定年を超えて引き続き務めてもらわないといけないようなケースが、黒川さん以外にこれまであったのか問われると、森法相は黒川さん以外「例はない」と答えています。経過からして、この法案と黒川人事が関係ないということは成り立ちません。

世論の広がり感動

 ―芸能人、著名人を含めツイッターなどで幅広い反対が広がりました。
 検察という存在自体、多くの人にはなじみの薄い存在でしょう。この問題で、これだけ多くの人が立ち上がり、その声が国政を動かした。感動的ですらあります。
 行政や税金を私物化してきた安倍内閣が、司法権の独立まで脅かそうとしているという危機感なのだと思います。
 また、俳優や音楽関係の人たちをはじめ、多くの人がステイホームを余儀なくされているのに、適切な補償がないことに、何とかしてほしいと求めてきました。そうしたコロナ対策はまったく進まないのに、この法案は強引にでも進めようとしてきた、そのことへの憤りが背景にあるのだと思います。
 政府・与党は継続審議にするとしていますが、秋に先送りしても問題の解決にはなりません。特定の検察幹部を定年延長する特例部分の削除と、ことの発端となった黒川人事の撤回が必要です。