東京都の2018年度予算案を審議する予算特別委員会の総括質疑が、13~15日の3日間行われました。この中で注目を集めたのが、岸記念体育会館をめぐり政治家の介入によって都政をゆがめる汚れた構図をあぶり出した、曽根はじめ都議(日本共産党)の質問でした。都の幹部職員が虚偽答弁をしてまで隠そうとした都政の闇とは――。(長沢宏幸)
若者たちであふれるJR原宿駅から徒歩で10分ほど、国立体育館を過ぎると白い五階建ての建物が現れます。日本体育協会(日体協)、日本オリンピック委員会をはじめ日本テニス協会など30を超える競技団体の本部・事務局が置かれ、日本スポーツ界の総本山とも言われる岸記念体育会館(渋谷区)です。
会館には「フェアプレーで日本を元気に」と書かれた日体協の看板が掲げられていました。曽根都議が追及した疑惑は、このスローガンにおよそ似つかわしくないこの会館の建て替えをめぐるものでした。
同会館は老朽化したため、神宮外苑地区への移転を計画しました。都は20年東京五輪のためという口実で、18年度予算案に現会館敷地の買収に94億円、移転補償として29億円、合計123億円を計上。さらに移転先に都有地を提供し、高さ制限を15㍍から80㍍に大幅緩和するという、異例の優遇措置も行いました。
日本共産党はこれまでも、異例づくめの都の優遇がされた移転問題をたびたび議会で取り上げてきました。日体協の神宮外苑への移転計画をいつ知ったのかとの質問に都は、2015年12月22日に日体協から要望が出され、翌16年1月7日に都として検討を進めることを了承したとの答弁を繰り返してきました。
ところが、今月1日の白石たみお都議の代表質問への邊見隆士都技監の答弁は、15年12月15日以前に、移転候補地として都から日体協に示したこと、移転検討は12年には都が日体協に提案していたというもので、それまでと全く異なるものでした。
曽根都議は「議会と議員への答弁として重い意味を持っている。こんな事実と違う虚偽答弁を行っていいのか」と追及。邊見技監は「事実に基づいてお答えをさせていただいている」とかわそうとしました。
曽根都議は「日体協百年史」(12年3月31日発行)に、第14代会長の森喜朗元首相を「政治力を発揮」「高いハードルを越えるための調整を自ら積極的に推進」などと、会館建て替えの立役者として、たたえる一文が掲載されていることを示し、「都にも森氏と話し合った記録が残っているはずだ」とただしました。
邊見技監は「森氏からの働きかけの記録は見当たらないことに変わりない」と、先の白石都議の代表質問と同じ答弁を繰り返し、当時の担当者からの聞き取りでも同様の答えだったとしました。
そこで、そね都議が明らかにしたのが、複数の政治家の関与を示す、都の4件の記録文書。12年5月15日に森氏が都副知事と面談し、「ここ(神宮外苑)に日体協も移転させるといい」といった政治家と都幹部職員との生々しいやりとりが記載されています(別項)。
では、虚偽答弁までして隠そうとした事実とは何か―。曽根都議は「森元首相ら政治家と水面下で相談し、意に添うよう事を進めたのが明らかになるのを恐れたからではないか」とズバリ核心に迫りました。
邊見技監は「神宮全体のまちづくりについて、こちらから伺ったことはある」と、直前までの答弁を変え、森、萩生田光一(衆院議員)両氏らに面会していた事実を認めました。そして、再三の追及に「虚偽答弁には当たらないが、説明に丁寧さを欠いた」と、苦しい答弁をせざるをえないところまで追い詰めました。
曽根都議は、政治家の介入や特定団体優遇の実態を検証するよう小池百合子知事に要求。小池知事は「情報開示と丁寧な説明を指示している」と答弁したものの、改めて検証する考えは示しませんでした。
曽根都議は公表文書の委員会への提出、森氏らの参考人招致を委員長に要求しました。その後、曽根都議が公表した文書は、共産党都議団に対し、黒塗りなしで全面開示されました。