過密化解消、管制人員増を共産党 羽田事故を受け聞き取り

 羽田空港で日本航空と海上保安庁の飛行機が衝突した事故(2日)をめぐって、日本共産党の宮本徹衆院議員、山添拓参院議員、坂井和歌子衆院東京比例予定候補と同党都議団、地方議員らが11日、国への聞き取りを行いました。事故原因究明や再発防止策について、国土交通省、海上保安庁、運輸安全委員会、警察庁などから説明を受けました。羽田空港(大田区)の運航の過密化の解消や、管制官の体制充実を求めました。
 国交省の担当者が事故の経過を説明し、管制機関や航空事業者への基本動作の徹底指示、管制官による監視体制の強化、パイロットによる外部監視の徹底と視覚支援、滑走路進入に関するルールの徹底―などの対策をとったと語りました。
 また、管制官の人数の推移を示し、羽田空港では500人程度で推移しているとしました。
 宮本氏は、管制官などが入る労働組合は、「運航の過密化で、いずれ事故が起きると指摘していた。管制の体制確保は、早急に実施すべき課題だ」と強調しました。
 山添氏は、「緊張感のある職場で、人員の補充が必要だ。また、事故を受けてメンタルの不調を訴えている人もいると聞いており、ケアなどの体制も重要だ」と指摘しました。
 国交省の担当者は「疲労管理の仕組みをとっている。指摘は真摯に受け止めたい」と答えました。
 白石たみお都議は、「羽田空港の新飛行ルートの運用開始で、航空便の増大で運航が過密化したことが事故の背景にある可能性がある。通常の運用に戻すことを考えるべきだ」と提起。担当者は「事故の要因は、今後の解明になる。過密化も、事故の背景にあり得るという認識はある」と語りました。
 宮本氏、山添氏は、客室乗務員を1ドアに一人以上、配置するよう、労働組合が長年、求めてきていることを紹介し、「今回の事故を受けて、国交省も旅客の安全を守る基準として、1ドア一人以上の配置を進めていくべきだ」と求めました。
 山添氏は、事故の原因究明について、運輸安全委員会による調査と、警察による捜査の関係について「原因究明に資するために調査に積極的に協力したいという関係者も、刑事手続きの捜査で個人の責任が追及されるとなれば、率直に話をすることをためらうということにもなりかねない。事故原因の究明は、運輸安全委員会が行うべきだ」と指摘しました。

究明は次の事故防ぐため
元JAL機長 山崎秀樹さんに聞く

 羽田空港での、航空機同士の衝突事故は航空の安全をめぐる、さまざまな問題を提起しています。JALの元機長で、JAL被解雇者労働組合(JHU)書記長の山崎秀樹さんに聞きました。
―事故の受けとめは。
 海上保安庁の隊員に犠牲者が出たことは本当に残念です。一方でほぼ満席に近いJAL機は、けが人は出たものの、死者はいなかった。不幸中の幸いで、本当に良かったと思います。
 運航乗務員は常に、様々な事故の事例や事故報告書などをもとに、どうやったら事故を防ぐことができたのかを考え、チームで議論するなど、経験を積み上げていきます。今回の事故も、当事者がよくやったことは前提に、事故を防ぐことはできたのではないかと考えることが重要です。
 ―それぞれについて、お聞きします。まず、パイロットについては。
 今回の事故機が、ヨーロッパ製のエアバスA350だったことに注目しています。
 JALは長年、ボーイングなど米国製の機体を使ってきており、エアバスの運航を開始したのは4年前です。今回は、副操縦士が機種移行訓練で右席操縦していて、機長は左席に座っていました。
 エアバスにはJALの機長が長年、親しんできた操縦桿がなく、サイドスティックで操縦します。スイッチの方向や、機材の呼び方など、設計の考え方もまったく違う。慣れていない機体の操縦を学ぶ訓練をしていて、注意が滑走路に向きにくい状況のなかで、侵入した海保機に気付くのが遅れた可能性があります。
 また、この機種には、操縦計器を正面の窓の部分に表示する機能(ヘッドアップディスプレイ)があります。この計器の表示が、滑走路上の機体を見にくくした可能性の検証も必要です。
 後方座席に座っていたサードパイロットは、滑走路全体を見通せる位置にいました。海保機を見つけられなかったのはなぜかにも注目が必要です。
 ―誤進入した海保機に気づく可能性はあった、ということですね。
 関連するICAO(国際民間航空機関)のデータを紹介すると、2022年、2023年ともに滑走路への誤侵入は年間に1700件起きています。そのうち6割、1000件以上が、今回と同じ「パイロット・デビエーション(逸脱)」と呼ばれる、パイロットの誤認識などが原因です。
 つまり、世界の空港で1日に3件ほどはこうした事例が起きていますが、その多くが事故につながらず、回避されています。ICAOの分析で、事故を回避できた理由がはっきりとしているもののうち、一番割合が高いのが、約3割を占める着陸機によるゴーアラウンド(着陸をやり直すこと)です。
 日本航空機は、今回の事故を回避する最後の砦でした。着陸前に滑走路の確認をどこまでやったのか、その点は、究明すべきことです。
 ―客室乗務員は。
 満席に近い乗客を全員、退避させた。これは素晴らしいことです。
 そのうえで、退避まで18分の時間がかかったことの検証は必要です。
 航空機は、満席でも全員の退避が90秒でできるよう設計されています。今回のように8個のドアのうち3つしか開けなかったという場合でも、もっと早く退避できたのではないかと考える必要があります。
 もう一つ、指摘するべきなのが、客室乗務員の配置の問題です。今回は9人の客室乗務員が乗っていましたが、本来のJALの、当該機種に対する配置数は8人で、運航経験の浅い若手が多数乗務していました。
 3人がベテランの客室乗務員で、今回、ドアが開いたのは、いずれもベテランが担当したドアだったといいます。
 客室乗務員は、総務省の分類では飲食物給仕従事者という扱いですが、乗客の命と安全を守るための保安要員であることをはっきりと示したのではないでしょうか。航空従事者として位置付けるべきです。2010年大晦日のJALの整理解雇では、経験を長く積んだベテランの客室乗務員から解雇しましたが、その問題点も改めて思わざるをえません。
 JALの客室乗務員の編成計画を見ると、ドアの数より、客室乗務員の最少編成数が少なくなっている機種があります。労働組合も、ずっと1ドア1人以上の配置を求めており、早期の実現が今回の事故の教訓です。

健全な労組の役割が重要に
 ―管制官については。
 業務の過重を指摘せざるを得ません。
 国公労連の資料によると、公務員の削減が続く中で、管制官は2004年から2023年の19年間で827人(16・7%)減だといいます。航空機の運航は1・5倍に増えており、23年の運航数がコロナ禍前に戻ると仮定して管制官一人当たりの運行数を計算すると、2004年の933機が、23年は1682機と1・8倍に増えています(グラフ)。
 とりわけ羽田空港は、都心飛行ルートの導入による増便で、超過密です。今回も、一つの滑走路で着陸と離陸を同時にやっていたことが、事故につながりました。
 ―今後の事故調査や対策に求めることは。
 国際民間航空条約第13条の付属書には、「事故調査の唯一の目的は、将来の事故または重大インシデントの防止である。罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない」と書かれています。
 これは罪や責任を追及しないということではなく、事故調査を優先にして、罪や責任の追及とは分離して扱いなさい、ということです。
 日本では、運輸安全委員会と警察が覚書を結んでいて、運輸安全委員会の調査結果が警察の捜査や裁判に利用されることになっています。
 二度と事故を起こさないという公益のために、警察の捜査と、事故原因の究明をきちんと分けることが必要です。
 もう一つ、言いたいのは、今回の事故が単独で起きたわけではないということです。JALはこの間、乗員や整備、地上作業者などによる事故や重大インシデントを相次いで起こしており、現状は非常に危機的です。
 企業が効率や利益を追求するなかで、健全な企業経営を守るには、健全な労働組合、声をあげる労働者の存在が不可欠です。航空の安全を守る、労働組合の役割がますます重要です。