まともな職場へ声上げて 墨東病院パワハラ 都を相手に「勝利和解」

 都立墨東病院薬剤科に勤務していた20代の女性薬剤師が、上司のパワーハラスメントと無給の超過勤務を強要されたとして、東京都に残業代や慰謝料の支払いなどを求めていた裁判に関して3月18日、東京地裁で勝利和解が成立しました。2019年9月3日の提訴から約1年半、都が11項目もの具体的な職場改善措置の約束を定め、和解金80万円の支払いを認める画期的な和解が実現しました。(松本美香)

 原告が墨東病院に入職したのは、大学卒業後の17年4月。直後から「1年目職員の有給休暇取得否認」「平日は21時、22時ごろまで『自己研鑽』としてサービス残業を強いられる」「超過勤務申請の拒否」「夜勤の練習と称して当直勤務を命じられるも、残業代はなし」「他職員の前での叱責」など、理不尽な労働環境のなかで駒のような扱いを受け続けました。新入職員は上司に従わざるを得ず、原告は「患者さんやご家族に寄り添いたいという、自分が思い描いていた薬剤師の理想とあまりにかけ離れていた」と当時を回顧します。

 業務は増えるばかりで疲れ果て、心も身体も鉛のように重くなった原告は、入職から1カ月ほどで体調を崩し、うつ病を発症。病と闘いながらも仕事を続けました。「食事がとれなくなり、帰宅後ずっと泣いていた。両親と一緒に住んでいたので、出勤中に私が電車に飛び込むのではないかと心配して、駅までついてくるなどサポートしてくれた」と語ります。
 2年目は夜勤の体制が変わり激務になるも、手当金は減少。同僚からも「生活が苦しい」と声が上がりました。
 心身ともに疲れ果て、19年3月末に退職。「自分のような犠牲者をこれ以上増やしたくない。都立病院の労働環境の実態を広く知ってほしい」との思いから、訴訟の提起を決意しました。

事実解明が力に
 弁護団の一人、笹山尚人弁護士は「正直、和解できるとは思っていなかった。行政訴訟が和解で解決するケースはまれで、この案件は判決までいくと想定していた」と語ります。
 和解だけでなく、11項目にわたる職場改善の約束を都にこぎつけることができた要因は、事実関係を解明できたこと。原告が家族や友人とやり取りした仕事関係のLINE(通信アプリ)内容や、本人がメモした就業時間等の記録、上司からの強要が明確に録音された音声データなどが重要な証拠となりました。
 当初、都は「超過勤務命令簿記載のもの以外に超過勤務の実態はないので超過勤務手当の未払いは存在しない」「パワハラの事実はない」と反論しましたが、事実関係が否定できず、「墨東病院は新型コロナウイルスまん延により最前線で対応を行っているため、和解による早期解決を目指したい」との趣旨で20年10月に都が和解案を提示。今年3月18日、和解成立に至りました。

定員抑制が背景
 この事件の背景のひとつに、公務員の定数・総人員数の抑制政策があります。笹山弁護士は都立病院に関して、「一般的に採算が取れない医療であっても都立病院だからできる治療があり、非常に重要な基幹病院。しかし、人件費を絞り、慢性的な人手不足が続いている」と指摘。「難しい治療もあり、職員にはそれだけ負担が多く、きちっとした労働条件がなければ続かない。小池都知事は都立病院に支出する年間400億円の予算を赤字と認識し、独立行政法人化を進めているが、質の高い医療を提供するなら、職員の労働条件の確保が最優先。独立行政法人化うんぬんの前に、病院としての労働法を最低限守るべき」と訴えました。
 原告は裁判を振り返り、「いろんな方々の協力で何とか裁判を続けることができ、それが実を結び安堵した。メディアなどで裁判を知った人たちからうれしいメッセージを多数いただき、想像以上の反響に驚いている。黙って職場に耐えている人は『これはおかしい』とあきらめずに声を上げ、待遇改善につなげてほしい」と語りました。