東京”現場は医療崩壊”/立川相互病院副院長 山田秀樹さんに聞く

新型コロナウイルスの感染急拡大で政府は東京・埼玉・神奈川・千葉の1都3県に緊急事態宣言を出しています。増え続ける感染者への対応に追われる東京の医療機関の現状について全日本民主医療機関連合会加盟の東京・立川相互病院(立川市)副院長で救急診療部長の山田秀樹さんに聞きました。
(武田祐一)


患者の受け入れ 限界

― 新型コロナウイルス感染者が増えています。現状は?

新型コロナウイルス感染者を受け入れるための病床は18床あり、うち3床は重症者用です。昨年12月中旬からほぼ満床状態が続いています。

昨年のコロナ流行第1波、第2波のときは、軽症者が多く、重症者は少なかったので、まだ余裕がありました。しかし今は40代以上で、中等症、重症の人が増えています。

コロナの疑いがある人の外来診療は予約制で、1日20人まで受け入れています。PCR検査をして陽性だと保健所が宿泊療養か入院か振り分けを行いますが、既に業務が追いつかず、全都で3000人以上が調整待ちをしています。

中等症以上の人は入院が必要になります。酸素投与に加え、炎症を抑えるデカドロンや抗ウイルス薬のレムデシビルなどの薬を投与しても、重症化して人工呼吸器が必要になると、7日~2週間の集中治療室入院が必要です。重症用のベッドはすぐには空かず、新たな感染者の入院を断らざるをえません。

― 医療体制がひっ迫しているということですか。

これは当院や立川市周辺地域だけのことではありません。いま東京の医療機関全体が直面している状況です。先日、遠方の病院から重症化したコロナ入院患者の転院依頼がありましたが、すでに数十カ所の医療機関で入院を断られたという例がありました。患者を受け入れたくても受け入れられない状況に陥っています。

コロナの診療のためにベッド数を減らし対応していて、空きベッドがないために、脳卒中などの急性疾患の救急患者さんも断らざるをえない状況です。現場から見れば、既に医療崩壊しています。

看護師に桁違いのストレス

― 医療従事者への負担はどうですか。

昨年2月からの新型コロナへの対応で、病院の医師、看護師、職員も疲弊しています。

特に看護師が大変です。コロナ患者は急に重症化することがあり、容態が悪化しないかと24時間、見守らなければならないため、けた違いの大きなストレスがかかります。中にはメンタル不全に陥る人もあります。

看護師にアンケートを取り、家族などの状況を考慮して相談しながら担当を決めてきました。職員の相談に乗る専任の保健師も置いて、面談しサポートしています。

看護師の負担を減らすために事務職やリハビリ担当者も病棟に足を運び、荷物の受け渡しや、外出できないコロナ患者の買い物を代行したりしています。

人手不足は深刻

人手不足は深刻です。一昨年までは新卒のほかに、経験のある看護師を十数人、中途採用してきましたが、コロナ禍の影響で入ってくる人が減っています。

職員のコロナ感染が3回ありましたが、幸いクラスター化は防ぎました。感染の疑いのある人や濃厚接触者の職員に対して、すぐにPCR検査を行い、感染拡大を防ぐ取り組みをしてきました。ただ、これだけ感染がまん延してくるとクラスター発生の懸念が常につきまといます。

― 医療資材の不足や財政状況は?

マスクやガウン、手袋といった感染予防の資材は昨年の2、3月は不足して困りましたが、4月以降は徐々に手に入るようになり、現在は安定しています。

全医療機関に支援金を

病院の財政的には苦しい状況が続いています。コロナ患者の受け入れ病院になったことで、病床確保料や補償金などが入ったものの、コロナの影響によって減った外来の収入分は補てんされないままです。

コロナ対応をしていない医療機関には補助金がほとんどなく、経営はより深刻になっています。中には職員への夏季・冬季の一時金を削減したところもあります。これでは生活に支障が出てきますし、命がけで働いている医療従事者の意欲が低下してしまいます。

医療機関を守るために国は、すべての医療機関に十分な支援金を出すべきです。

感染者を減らす

― この状況を打開する道は?

国民の命を守るためには、新型コロナの感染者を減らすことです。感染のリスクを避けるために、手洗い、マスクをする、3密をさける、会食をさけるということが必要です。

飲食店に営業自粛を求めるなら、もっと十分な補償をしないと、つぶれてしまいます。補償が足りないと業者は営業せざるをえません。自粛・休業の補償をセットでやらなければ効果が出ません。

PCR検査の抜本的な拡充が必要で、国がしっかり位置付けてやるべきです。クラスター対策のためには医療や介護の現場で定期的な検査が必要です。国民がすぐに医療機関で検査を受けられるような体制や、無症状感染者を見つけるための集中的な検査体制を拡大し、費用も国が全額負担することをしないと、患者を減らすことはできません。

(2021年1月11日付「しんぶん赤旗」より)