「内閣総辞職ものです」  不公正、不公平、不透明 元文科省事務次官 前川喜平さんに聞く
 「森友・加計学園問題は国政が私物化された結果」。本紙のインタビューに、こう応じた元文部科学省事務次官の前川喜平さんは、権力の腐敗と横暴を告発し続けています。インタビューは加計学園疑惑や改憲問題、日本と東京の教育や自身の生き方など2時間半に及びました。
(聞き手・松浦賢三 写真・田沼洋一)
 
 ―森友学園とともに加計学園疑惑が、いよいよ深刻です。前川さんは、獣医学部の新設計画に関して昨年5月、「総理の意向」などと書かれた文書は、文科省に「確実に存在していた」と勇気ある告発をしました。現状をどう見ますか。
 
 前川 一つ一つが既成事実化され、加計学園の獣医学部が4月開学となるわけですが、理事長の加計孝太郎さんたちのために、国政が私物化された結果だと考えざるを得ません。メディアなどでも、私が知っていた以上のことが明らかになっていますが、それらについて政府の説明が一切ないことが非常に問題です。
 
 
「権力の腐敗」だ
 
 ―行政が非常にゆがめられていると。
 
 前川 ひょっとしたら氷山の一角で、あちこちで腐敗が進んでいるかもしれない。「権力の腐敗」の一つが森友学園であり、加計学園問題だと思います。問題点は不公正、不公平、不透明です。
 獣医学部の新設が、国家戦略特区制度の目的にかなっているのか、閣議決定をした4条件に合致しているか、などについての審査が実質的に行われずに結論を出してしまった。京都産業大学のように、かなり優れた構想を持っていたところが、“広域的に獣医学部が存在しない地域”だとか、“平成30年4月開設でなければならない”など、非常に不公平な後出しの条件で恣意的に排除されました。
 
 ―経過が全く明らかにされませんね。
 
 前川 議事録、議事要旨といったものがちゃんと公開されず、一連のプロセスが極めて不透明です。これは、私もメディアを通じて知ったことですが、2015年4月2日に加計学園と今治市、愛媛県の3者が官邸で首相秘書官(当時)の柳瀬唯夫さんと面会していて、下村博文文科大臣(当時)も顔を出していたというのです。
 それについて、政府に説明を求めても何一つ答えていない。柳瀬さんも「記憶がない」「記録もない」の一点張りです。こういう「加計隠し」と言わざるを得ない不透明さが始めからあるわけですね。
 
 
加計ありき明白
 
 ―前川さんも、直接体験されました。

 前川 私が関与し始めた16年8月以降、すでに「加計ありき」だったことは間違いないです。内閣府や文科省、農水省などの関係する人たちは、国家戦略特区で認めようとしている獣医学部が加計学園なのだということは、暗黙の共通理解としてあったわけです。少なくとも15年4月以降は、国家戦略特区として「加計ありき」が始まっている。安倍総理が知らなかったはずはないと私は思っています。
 
 ―嘘をついていると。
 
 前川 安倍総理が、国家戦略特区の提案を知ったのは17年1月だったというのは虚偽だと思います。それは私自身が総理補佐官から「総理は自分の口から言えないから代わって私が言う」と言われました。内閣審議官からは課長が再三「官邸の最高レベルが言っている」「総理の意向」と言われるなど私自身が見聞きしたわけですから。
 
 ―白を切っているわけですね。
 
 前川 15年4月以降、どういう会合があって、そこで誰が何を言ったのか、どんなことを話し合ったのかを、ちゃんと明らかにしなきゃいけない。会合があったことすら認めていないわけですからこれはひどい、真っ黒だと言うことです。その責任だけでも内閣を総辞職していいのではないかと思います。
 
 ―それにしても、名前と顔を公表しての前川さんの発言は、勇気ある証言でした。
 
 前川 いや、そんなんじゃないです。メディアの方から接触を受けて、資料の存在を認めたということであって、意を決して告発に踏み切ったというほど、格好のいいものではないのです。文科省を辞めた後ですから、何も失うものはない。しかも現職中は「行政がゆがめられている」と思っていたものの黙っていたのですから。
 
 
国民は知るべき
 
 ―「決意」がいったと思います。
 
 前川 文科省内では天地をひっくり返したような騒ぎになり、幹部の人たちには相当な迷惑をかけると思ってはいました。ただ、権力が私的に乱用されていることを国民が知らなければいけない、と思っていましたから。
 憲法の前文に「国政は国民の厳正な信託によるものであって…その福利は国民が享受する」と書いてあるように、国民が厳粛に信託した権力が、一部の人のために使われることはあってはならないし、もしそうであれば主権者の国民が知らなければなりませんからね。
 
 
日本の教育 危ない
 
 ―文科省内からの告発もあった。
 
 前川 加計学園問題はおかしい、これは国民に知ってもらうべきだと思ったからだと思うのですが、外部に情報を提供している職員が文科省内に少なくても3人、場合によっては4人いると思います。もちろん、顔も名前も出していませんが、自分の地位や将来を失うかもしれない人たちが情報を外に出しているのですから、私より勇気があるかもしれません。
 
 ―それは間違いないのですか。
 
 前川 絶対に間違いじゃないです。私が現役の頃、見たことがない資料がどんどん出ているのです。相当、危険を冒して出しているということでしょうね。それにしても、権力の中枢を構成している人たちは、国民は愚かだ、だまし通せると思っているのでしょう。ちょっと目先を変えればと北朝鮮は怖いぞ、ミサイルを撃ってくるぞ、などといって利用し、本当に怪しからんと思います。
 
 ―教育についてですが、教育行政を進めてきた立場から、安倍内閣の教育をどうみますか。
 
 前川 大きく言えば、全体主義に向かっていて本当に危ないと思いますね。同時並行で「評価」と「競争」で分断していく新自由主義的な方向を強めています。この20~30年、ずっとそういう形で進んできていると思います。
 とくに、4月からは検定教科書を使って道徳の授業をすることになります。この道徳の教科化が今後、日本社会にとって「危険」になってくるのではないでしょうか。それは道徳の教科書に出てくる話のほとんどが個人より全体、さらに国家が大事だという考え方になっているからです。自己抑制し、規律に従い、決まりを守ることばかりが強調されています。
 私は道徳について「個と地球の欠如」といっているのですが、「個人の尊厳」が出てきません。国家主義なのです。これに「天皇を敬愛しましょう」という文言が入ってくれば、教育勅語とうり二つになってしまいます。