「自分の力で通学したい」 大学前に音響信号ついた

全盲の学生
 「誰にも頼らず自分の力で通学したい」。大東文化大学板橋キャンパス(板橋区)に通う全盲の秋元美宙(21)さん=同大3年生=の願いが今春、ようやく実現します。介助者なしに渡れなかった同大キャンパス正門前の横断歩道に、音響式信号機の設置が実現したからです。秋元さんの熱い思いがゼミ仲間や大学当局にも共感を広げ、ついに行政を動かしました。 

自立への熱意、行政動かす
 「入学当初から音響式信号機を求めて行動してきたので、実現してうれしい。道を自分の力で歩けるのは、言葉では言い表せないほどの充実感があります」
 東京視覚障害者協会(東視協)が呼びかけた「安全設備を確認する会」(3月21日)で、駆けつけた大学の友人や大学関係者、支援者らを前に秋元さんは喜びを語りました。
 秋元さんが専攻する社会学部の1・2年生は東松山キャンパス(埼玉県)、3・4年生が板橋キャンパスです。入学が決まってから、一人で通学するためにルートを入念に検討しました。東松山では自宅から電車やバスを乗り継ぎ、大学の敷地に乗り入れるスクールバスを使用しました。
 板橋キャンパスでは東武東上線成増駅から路線バスを利用することにしました。ところが帰りの成増駅行きのバスに乗るには、正門前の横断歩道を渡らざるを得ないことが分かりました。片側3車線の都道は幅が広くて交通量も多く、上には首都高速道路もあって、車の走行音を頼りに渡るには余りにも危険でした。
 秋元さんは歩行者の青信号を音で知らせる、「音響式信号」の設置を要望することにしました。相談した盲学校時代の恩師から、東視協を紹介され、入会。山城完治副会長のアドバイスのもと、東京都建設局や警視庁などに請願書を提出しました。
 「全盲の私にとって道路を横断することは、一歩間違えれば車にひかれ命を落としかねない危険な事です。大学まで一人で通学することは、大学生活を充実したものにするだけではなく、社会に出て自立するための大きな一歩になります」と、訴えました。

横断できないのは全盲が理由でない
 大学2年の秋ごろ、警視庁や都建設局、板橋区などの関係者が秋元さん立ち会いのもと、現場を確認。要望通り、成増駅行きバス停までの歩道の中央に点字ブロックを敷設しました。成増駅のエレベーター降り口から大学へ向かうバス停までの点字ブロックなども整備しました。
 しかし3年生になっても音響式信号機の設置はかなわず、大学の友人や社会学部の職員がバス停まで介助するようになりました。
 「3年生からキャンパスが板橋に変わり、通い始めてから半年が経ちましたが一度も一人で通学できていません。それはただ私が全盲だからではなく、音響信号がついていないからなんです。(略)信号の色を確認して渡るという当たり前にできることが私にはできないのです。横断歩道を渡るときに、青信号を何回かやり過ごすことがあります。それがどれだけ不自由なことか分かりますか」
 秋元さんの思いをつづった手紙です。日本共産党の大山とも子都議が、2022年度決算を審議する特別委員会(23年10月23日)で読み上げ、大学前を含めて音響式信号機が当たり前になるよう設置予算を思い切って増やすことを求めました。
 大学ゼミの友人らは、オンライン署名「チェンジ・オーグ」で署名に取り組むことにしました。「秋元さんは、私たちにとって大切なお友達です。気遣い屋さんで、いつも人を思いやってくれる秋元さんに、その優しさを返したい」。自分たちの思いを書き込み賛同を呼びかけました。同大社会学部は公式X(旧ツイッター)で協力を呼びかけました。東視協も点字署名に取り組みました。

自分を信じて前へ
 そして3月2日、ついにバス停手前の横断歩道を含めて、音響式信号機の設置が実現したのです。
 東視協の山城さんは、「多くの人の力で点字ブロック、音響式信号機、エスコートゾーンという視覚障害者が街を歩く時の3本柱が整備された」と評価。友人の榎本涼花さん(21)は「努力が実って感無量です。本当に良かった」とにっこり。中野泰彦学部事務長は「先生、職員、学生みんながサポートしてくれた。何より秋元さん自身が頑張った姿にみんなが感化された。うれしいですね」と笑顔を見せます。
 秋元さんは「ゼミの仲間や東視協の人たち、活動に関わってくれた人たち全てに感謝したい。うまくいかなかったらという不安はありましたが、活動を通して思いが可能になることを実感できました。今回の経験を生かして、これからも困難なことがあっても、自分を信じて仲間の力をかりながら頑張って進んでいきたい」