公契約条例 新宿区で制定 適正な労働環境に

2019年8月26日

都内で9自治体

 新宿区では、6月の区議会で全会一致で可決された「公契約条例」の具体化が進んでいます。公契約条例とは、区が発注する契約で働く労働者の、適正な労働環境の確保や事業者の人材確保を図る内容です。09年の千葉県野田市での条例制定から10年、東京では人口比で2割を超える3市6区が制定。委託賃金の引き上げが域内の民間同業者へ波及したり、小規模事業者への行政の支援に結びつくなどの変化が生まれています。新宿区の条例の特徴や、都内先行自治体に見る条例の効果などを見てみます。

 新宿区での条例制定は、区議会が「公契約法制定を求める意見書」を採択してから13年間の年月を経て実現しました。土建や区労連などの陳情を受け、その取り組みが実ったうれしい出来事となりました。
 同区は2010年に「新宿区調達のあり方について(指針)」を策定したことを理由に、条例制定に消極的でした。2018年11月の区長選挙で、現区長と野党統一候補の野沢哲夫氏がともに、公契約条例制定を掲げたことで全会一致の可決・成立に弾みを付けました。運動を広げた東京土建新宿支部の伊藤賢司支部長は、「10年、粘りに粘ってついに実現できました。2017年には区の発注工事の現場で賃金アンケート宣伝を行い、賃金が区の要綱にある設計労務単価の9割を下回っていることが分かり、こうした実態を各会派を回って示し、要請してきました。今後も実効性のある制度にするために運動に取り組みたい」と話しました。

 議会では日本共産党が20年にわたり、一貫して制定を求めてきました。
 同区議団は吉住健一区長が18年11月の当選後の所信表明の中で公契約条例制定を表明したことを受けて2月、▽最低賃金水準を確保するにふさわしい(区の)契約額を設定する▽当該各分野の構成員(弁護士・社労士など)と労働者代表2人以上を入れた第三者機関を設置する▽対象の入札金額を工事1000万円以上、委託500万円以上として全国トップの水準をめざす▽受注関係者が支払う賃金等が最賃水準を下回らないよう、受注者が受注関係者と連帯して支払い義務を負うことを規定すること─など8項目にわたって申し入れました。
 公契約条例の審議をする総務区民委員会の藤原たけき区議は6月区議会で、前記申入れに従って実効性ある公契約条例にすることを求めました。「答弁は消極的な内容にとどまりましたが、条例制定を第一歩として、要望を一つひとつ実現させていきます」と話します。

「景気に対応」に注目
 同区が7月26日に開いた「公契約条例説明会」で管財課長は、条例の対象を2000万円以上の工事請負契約と同1000万円以上の委託契約としたことや、区長の諮問機関として労働者報酬等審議会(審議会)を設置すると定めたことを説明しました。
 東京土建本部常任執行委員で公契約条例に詳しい中村修一さんは、新宿の条例が、「制定趣旨として消費増税(10月)や、東京五輪後の景気悪化に適切に対処するため」としていることを上げて、「景気悪化への自治体の責務とも読みとれ、全国にも例がないもので大変、注目している」と話します。
 また、条例の内容について、「地域の小零細事業場の支援策に労働環境保全を通じた人材確保を位置付けている点は、とても興味深い」と言います。
 「外国人も日本人もすべての労働者の最低賃金額が担保されることが、働き方改革で増やすとされた請負労働者の貧困と、それによる地域経済のいっそうの低下の歯止めになる」と中村さん。「公契約条例は東京で市民権を得たといえます。制定には共産党の議員さんの調査や論戦が大きく貢献していますね」と話しました。

3市6区で制定 下請育成に
 都内では国分寺市、多摩市、日野市、千代田区、足立区、渋谷区、世田谷区、目黒区に同条例があり(表)、制定を目指す動きは4区1市で見られています。
 世田谷区では、委託労働者の時給下限額が、民間施設にも波及。「(区の引き上げで)賃金を引き上げないと人が集まってこない」との声が上がっているといいます。多摩市では条例制定によって、建設の下請けに一定の賃金を払うきちんとした仕組みを作ろう、下請けにも市内事業者を選び、良い下請けを育成しようという動きが生まれました。足立区は公契約条例と小規模工事登録制度が相まって、域内の建設下請け労働者に技術力をつけ実績を作ろうという機運が生まれているといいます。