政権交代の必要性露わに 共闘の威力示した都議選

コロナ対応

◆ 編集長インタビュー
上智大学教授
(政治学) 中野 晃一さん

秋までに行われる総選挙は、都議選の結果を受け、市民と野党の共闘による政権交代の実現へ、正念場のたたかいとなります。政治学が専門の中野晃一上智大学教授(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合呼びかけ人)に、都議選結果と総選挙、開会中の東京五輪について聞きました。    (聞き手・荒金哲)

―都議選の結果をどうみていますか。
いくつか論点がありますが、一つ気になっているのは、投票率の低さです。さまざまな悪条件があったとはいえ、今回のような重要な選挙で、少なくない都民が棄権してしまった。政治システム全体が、都民、国民の期待にこたえられていないことが現れています。
それと密接に関係することとして、マスコミの多くが、コロナ禍と五輪という重要な争点ではなく、「自公が過半数を取るのか、都民ファーストが踏ん張るのか」が選挙の構図であるかのように喧伝しました。両者の政策に大きな違いがあるわけではないので、何が争点か伝わらず、投票率が上がりようがありません。これは、我々の側からの反省点としては、立憲野党の選択肢がメディア戦から除外されてしまい、都民全体に強く意識されなかった、ということでもあります。
そのうえで、とはいえ、立憲野党の共闘がなされた選挙区を見れば、共闘の威力がかなり明確に発揮されたことは重要です。なかでも立憲野党の中核をなす、立憲民主党と日本共産党の両方が、どちらかが犠牲になるという形ではなく、ともに議席を伸ばす成果をあげた。これは共闘にとって良いことですし、勇気づけられる結果でした。

―共産党の選挙結果については、どうみていますか。
野党から共産党の候補者だけが立候補した選挙区で、上位で当選したケースが多くあります。共産党が発している明確なメッセージと立ち位置に、信頼が集まった結果だと考えられ、画期的なことです。
一つには、共産党自身が、選挙のたたかい方、スローガンや宣伝物、訴え方などを、ここ数年でアップデート(更新)してきたこともあると思います。若い世代のなかでは、ジェンダーや暮らしの問題で共感を持てる候補者を選んだら、共産党の候補者だったということが生まれています。
また、2016年以来、立憲野党が共闘を積み重ねる中で、現状を変えたいという無党派層のソフトな支持が一定程度、立憲野党に集まる状況が生まれていると見ています。「野党共闘世代」が生まれているという言い方をしても、よいかもしれません。年齢での区分というよりも、2015年の安保法制の運動以来、政治や運動への関与を深めていった、幅広い年代の人たちです。
そのなかに、共産党への支持や親近感を持っている層が一定数いて、都議選では自然に共産党に投票したのだと思います。

―自公が都議会過半数を取れなかったことは。
公明党については、ギリギリで全員当選しましたが、得票数の減少傾向は明らかです。前回は小池百合子知事と連携したのに今回は自民党と組んでいたり、国政でも安倍、菅政権に引きずられ続けている。立ち位置や、政党の役割がはっきりしないことで、支持層が離れているのでしょう。
自民党に関しては、全体として国民から愛想を尽かされている状況に変わりはありません。都民ファーストの化けの皮がはがれても、言われていたほど自民党回帰が起きず、地方選挙での地盤沈下の傾向は続いています。しかし今回は、立憲野党が十分に受け皿になれないなかで、低投票率という形で、その流れが現れました。

―関連して、マスコミ報道が「自公か都ファか」のような構図となる背景をどうみていますか。
日本の全国紙、主要紙についていえば、「政治部文化」の根強さが大きな問題です。いわば「政界天気予報」のような形で、狭い意味の政界で「どちらが強くなるか、弱くなるか」にばかり関心を向ける。国民や都民が政治にどんな関心を持っているかという視点ではなく、「統治者の目線」から情報を提供する文化が染みついています。
これは私たちが市民連合を立ち上げた時にも痛感したことでした。総がかり行動や学者の会など安保法制反対の運動は、取材するのが社会部で、こうした取り組みに関心を持ってくれる記者が一定数いました。他方、市民連合は選挙で立憲野党を後押ししようという取り組みです。政治部の取材対象のはずですが、記者の感度が極めて低く、関心をほとんど持とうとしないことを痛感してきました。
他方で、この間、SNS(ネット交流サービス)などを出発点とした世論や運動が、既存メディアを動かすケースが多く出ています。そうした取り組みに注目する感度の高い記者や、メディアのあり方に問題意識をもつ記者も増えています。市民が声をあげることが、そうしたメディアの変化も促していきます。

“共闘の碇”の共産党
総選挙で議席伸ばして

―都議選が総選挙に与える影響をどうみていますか。
選挙制度の違いもあり、都議選の結果が、単純に総選挙に当てはまるわけではありません。
ただ、そのうえで、野党共闘には効力があり、立憲民主党にとっても大きなメリットがあることがはっきりと示されました。立憲民主党は、立党の経緯もあり、都議会にほとんど議席を持たず、東京での地盤も弱かった。そこでこれだけ多くの議席を得られたことは、共闘の成果にほかなりません。総選挙の共闘も、大きな効果を持つでしょう。
もう一つは、都議選の低投票率を踏まえ、衆院選において政治への関心を高め、投票率を上げることが大きな課題になります。市民の怒りの高まりが、「何をやっても変わらない」と政治に期待しない形になるのではなく、投票行動につながるようにする取り組みが大切です。
―総選挙で、共産党に期待したいことは。
単刀直入にいえば議席を増やしてほしい(笑)。
それは、共産党がこの間、野党の再編など混沌とした状況の中で、共闘の碇(いかり)のような役割を果たしてきたからです。
仮に政権交代が実現したとき、それが真に国民のための政権交代になるために、筋を通して、人々の命や暮らしを最優先すべきとぶれない共産党の役割がいよいよ重要になってきます。また、自公を減らすことはできたけど、政権交代にまでは至らなかった場合のことも、考えておく必要があります。自民党は、野党の一部に揺さぶりをかけてくる可能性が高いでしょう。この間続いた、政治の軸が右に移っていく流れが変わったわけではありません。それを食い止めるために、声をあげ、より革新的な方向に政治を引っ張る共産党が、しっかり議席を増やしていることが大切です。

政治と社会の劣化に驚き

―東京五輪をめぐって、海外メディアの取材も多く受けておられます。海外からの日本への視点で感じることは。
日本に対して海外の人たちが持っていた「美しい誤解」が解けてしまったことを感じています。
多くの海外メディアの人たちは日本を、かつての経済大国で、平等な社会を実現し、物事の実行能力が非常に高い国として、イメージしていた。それが、オリンピックやコロナ対応における様々な混乱などを通じて、ショックを受けながら“誤解だった”と知るに至っているというのが、率直な感想です。
これについては、一定数の日本人にとっても同じではないでしょうか。コロナ対応をみても、日本はこんなにも国家能力がない国になっていたのかと驚きます。新自由主義的な改革で国家の能力がずたずたになり、合理性のない無責任な政治の下で社会がこんなにも劣化してきた。それがあらわになったことが、五輪の最大の「レガシー(遺産)」になる可能性があります。このままだと、日本は沈没させられてしまう。それが、立憲野党が何としても強くなり、政権交代を実現しないといけない、大きな理由でもあると思います。
一分

新型コロナの感染拡大が、急加速しています。東京の1日の新規感染者数は4千人を超える日が出始め、全国の増加幅も前週の2倍を超えるペースになっています▼専門家でつくる政府のアドバイザリーボードは、「危機感を行政と市民が共有できていないのが、現在の最大の問題」と指摘します。国や都は、五輪開催にこだわって、感染症対策の強化と矛盾するメッセージを発し続けています。さらに、ワクチン接種の進展で「重症者数が減ってきている」との楽観論も、首相らが繰り返し語っています▼その一方で政府は2日、新型コロナ感染者の入院に関する考え方を転換し、感染拡大地域では重症者やリスクの高い人を重点的に入院させ、それ以外の患者は原則、自宅療養にするとの方針を示しました。深刻な症状が出ている中等症の人たちが自宅にとどまることになり、在宅死の増加を生みかねません。深刻な医療崩壊が、目の前に迫っています▼五輪開催がコロナ対策に逆行しているとの指摘にも、小池知事は「五輪はステイホームに一役買っている」と否定します。足元では、大幅に対象を絞った都独自基準の重症者数ですら、急速な増加傾向を見せています。国政、都政のコロナ対策に向き合う姿勢の転換は待ったなしです。

新型コロナ

感染急拡大1週間で2倍に
重症者急増で医療危機直面

新型コロナ感染拡大の大波が東京都を襲っています。政府は7月29日、東京に出されている緊急事態宣言を8月末まで延長することを決めました。感染は加速していますが、政府や都は新たな対策を打ち出すこともなく、ワクチン効果をことさら強調し、「第3波の時と状況は異なる」などと楽観論を振りまいています。日本共産党都委員会の新型コロナウイルス対策本部長で医師の谷川智行氏は、「病床がひっ迫し、自宅で亡くなる方が出てもおかしくない状況だ。それでも菅政権、小池知事は五輪継続のために根拠のない楽観論を発信し続ける。どこまで命を軽んじるのか」と怒りの声をあげています。
都内の直近7日間平均の新型コロナの新規感染者数は、8月1日時点で週平均3105人となり、前の週の1453人から214%に急拡大(グラフ)。7月28日から5日連続で3000人を超え、31日は過去最多の4058人でした。入院患者数は先週から449人増の3166人、都基準の重症者も23人増えて101人と急増しています。年齢層別では50代が最も多い36人、次いで60代19人、40代17人と、比較的若い人が重症化しています。また、16人が亡くなっています。
自宅で療養している人も1週間で5000人以上増えて1万1018人、入院・療養先が決まらず調整中の人も6500人以上増えて8857人に。7月29日の都モニタリング会議で専門家は「若年・中年層の重症患者が発生している。急激な重症患者数の増加は、救急医療や予定手術などの通常の医療も含めて医療提供体制のひっ迫を招く」と指摘していました。