核兵器廃絶へ新たな一歩 「批准せず」日本政府に批判

 史上初めて核兵器を違法化する核兵器禁止条約が22日、発効を迎えます。長年にわたる被爆者の訴え、核兵器廃絶を求める草の根の運動が国際社会を動かしました。東京の被爆者団体・東友会代表理事の家島昌志さん、ノーベル賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の川崎哲さん(ピースボート共同代表)、核兵器廃絶を求めるヒバクシャ国際署名のキャンペーンリーダー・林田光弘さんに発効への思いを聞きました。

22日、禁止条約が発効
実効性示す保有国の焦り


ICAN国際運営委員・ピースボート 川崎哲さん

 核兵器禁止条約が発効することで、核兵器は、作ることも、持つことも、使うことも、これに頼ることも禁止されます。条約の締約国が法的に拘束され、核兵器が初めて違法化されるということです。
 条約は、広島、長崎の被爆者をはじめ、世界の核実験被害者の長い年月をかけた訴えが実ったものです。このような苦しみを二度と誰にも味あわせてはいけないという被爆者の訴えに、私たちは多くのことを学んできました。ヒバクシャ国際署名は、5年間で1375万人余りが賛成し、被爆者の声が世界にこだましました。
 将来、仮に被爆者が直接語ることができない日が来たとしても、この条約は残り、世界の国々を縛り続けます。被爆者の方々に、改めて感謝したいと思います。

 条約について「核兵器保有国が入っていない」「実効性がない」という意見をよく目にしますが、これは誤りです。
 核兵器保有国がすぐに条約に入らなくても、法的拘束力とは別に、政治的、経済的、社会的な圧力がそうした国を包囲します。対人地雷やクラスター弾の禁止条約のときも、条約発効によって、これらの武器の生産、取引、使用が激減しました。
こうした条約によって新しい国際規範が成立し、仮に、その国の政府が条約に加わっていなくても、多くの銀行・金融機関は国際法で禁止された兵器をつくる企業への融資、投資を止めていきました。
 ここに、核兵器も加わります。すでに、金融機関が核兵器にかかわる融資などを控える動きが出ています。政治的にも、国際人道法で禁止された兵器を使用することは、考えられなくなっていくでしょう。
 こうした動きが現実に進んでいくからこそ、核兵器保有国やそれにつらなる国は焦り、条約への批判を繰り返しています。それ自体が、条約の実効性の現れです。核兵器禁止条約は核なき世界のスタートなのです。
 日本政府は、条約に参加しようとしていません。同時に、区市町村議会では、全自治体の3割で条約の批准や署名など参加を求める意見書が可決されてきました。日本の銀行や金融機関への働きかけ、そして総選挙の年である今年、国会議員への働きかけなど、日本の条約参加を実現するため、私たちもさまざまな取り組みを進めていきます。

今こそ政府は有言実行を


東京の被爆者団体・東友会代表理事 家島昌志さん

 3歳の時に広島で被爆しました。家中のガラスは吹き飛び、屋根もめくれて夜は月が見える状態だったといいます。広島の街を歩き回った父親は、若くしてガンにかかり、60歳で亡くなりました。後々まで尾を引く放射能の被害の影響でしょう。
 ヒロシマ・ナガサキ型の1000倍以上の威力を増した核兵器は、使えば人類の破滅を招く代物です。
 核兵器禁止条約には、被爆者の苦悩や訴えに配慮した旨の記述があります。私自身も、さまざまな国際会議や、外国の学校を訪ねて、核兵器の被害について話してきました。被爆者の体験の世界への発信が、条約の大きな力になったという識者の言葉が私たちを勇気づけます。それを支えてくれた世界の友好団体、仲間に深く感謝しています。
 平均年齢83歳を超えた被爆者に、残された時間は多くありません。唯一の戦争被爆国、日本の政府には、首相が広島、長崎の平和記念式典で毎年、述べる「核兵器廃絶に向けて国際世論をリードする」という言葉を、今こそ有言実行してほしいのです。

一人一人が当事者として


ヒバクシャ国際署名キャンペーンリーダー 林田光弘さん

 条約発効に、喜びが大きいのはもちろんですが、悔しい気持ちも強く感じます。私が身近に接してきた方たちも含め、多くの被爆者が、この間にも亡くなりました。その方たちに、条約の発効の日を見せたかった。ですので、私にとっては、条約発効は、この条約を生かして、核兵器廃絶に向けた次のステージへのスタートラインという思いの方が強くあります。
 核兵器廃絶を求めるヒバクシャ国際署名は8回にわたって国連に提出し、1370万2345人分に至りました。いずれの提出の際も、国連総会第一委員会議長や中満泉国連事務次長が直接受けとったり、動画メッセージを寄せ、「国際署名の運動、被爆者の活動が、核兵器禁止条約の成立、発効に大きな力になった」と感謝を述べられました。
 草の根からの運動が世界を動かしてきたことを、私たちは誇って良いと思います。
 被爆者は核兵器の直接の被害者ですが、核兵器の当事者は人類全体です。条約発効で核兵器は悪とされることで、私たち一人ひとりがより強く態度を問われる段階に入ると感じます。日本でも「私」として核兵器をなくそうと運動が強まる、そういう転機に発効をしていかなくてはいけないと決意しています。