日本IBM 「雇用破壊の未来見える」 賃金差別裁判原告に聞く

2021年1月12日 ,

 アメリカコンピューター関連企業であるIBM(アイビーエム=本社ニューヨーク)はコンピューターをビジネスに普及させた会社です。その日本法人の日本IBMでは、80年の歴史の中で24件以上の労働争議が起きています。そこには「外資系だから」では片づけられない日本の雇用破壊の未来が見えます。JMITU(日本金属製造情報通信産業労働組合)日本アイ・ビー・エム支部の書記長で定年退職後の再雇用賃金差別裁判原告、杉野憲作さんに構造的な問題を聞きました。
(菅原恵子)

 IBMは世界規模でコンピューター販売するために、基本的に100%子会社が方針で、米国本社の影響力が100%及ぶ手法で全世界を支配する多国籍企業です。一極集中型支配体制の中でコンピューターを販売しています。コンピューターは単にモノとして売るだけでなく、企業の仕事のやり方や労働の仕方、人事体制そのものを変えていくことが必要になります。IBMはコンピューターを売るだけの会社ではなく、企業体質そのものを変えていくことが商売です。

 今、人員削減や、労働者の首切りを「リストラ」と言いますが、IBMが生み出した言葉です。IBMは企業の再構造化(リストラクチャリング)を合言葉にコンピューターを売りました。企業のリストラクチャリングという名目で過去、労働者のクビがたくさん切られていった。日本ではそれを略して「リストラ」と表しています。

リストラの毒見役
 日本IBMはコンピューター売るために、まず自社内で人事制度改革や色々な労働者に対する扱いの改革、給与制度の改革などの実験をします。労働者の様子を見ながら日本市場への導入を図ってきました。
 時の社長は「日本IBMはリストラの毒見役だ」と言い、導入して上手くいけば取り入れ、上手くいかなかったら別の方法をとればいいと言う。毒見役を自認し、日本社会に悪い影響を与えてきました。

 今、一番相次いでいる労働争議は賃金減額問題です。
 日本の常識では企業が傾くと社員の給与を下げる前に、社長・役員から率先して給与カットします。日本IBMでは成果主義を最初に導入し、社員の査定評価が悪かったら最大で年収の15%の賃下げを実施しました。経常黒字の中で社員を一方的に査定し、所属長の独断で評価しました。労働組合は就業規則の一方的な改定は労働契約法違反だとして、延べ50人ほどの労働者が組合に入り裁判を起こしてきました。最近では2018年に第3次の集団訴訟を起こして労働争議中です。

 また50代社員に非常に厳しく、大抵、退職勧奨が行われます。定年まで勤めるのを「生き残る」というほどです。「生き残るのは至難の業で、基本的にIBMで定年まで行くっていうのはありえないというのが一般社員の常識」です。
 私は再雇用2年が経過。息子が私大生なので、年間200万円程かかり、年収が学費で全部消えていきます。仕事は質的に変化していないのに、現役時の2割の賃金は理不尽。高齢者雇用安定法に反します。外資系の会社とはいえ、日本に進出したのですから日本の法律に従って、日本社会に敬意を表し、日本社会に溶け込むようなことをしなければダメでしょう。

先導的改悪止める
 日本IBMではお金の不祥事が多いとささやかれています。モラルの低さは会社自体が作り出しており、対策で監査が厳格になることで仕事の足を引っ張る。すると営業ができず、ますます陰で悪いことをして売り上げを作ることが横行し、良い人材が残らなくなります。それゆえ中途採用での採用数が多いため、逆に転職情報サイト上の評価が高くなり、それを見て入社し、悲劇を被る人の量産体制ができています。
 個別管理を徹底し、現場の課長がすべてを掌握して査定、賃金まで決めます。他の企業でもコロナ禍における在宅勤務で査定ができず、「あなたの仕事はこれです」と、期日を決め、目標を決め課長が査定する「ジョブ型査定システム」が流行りだしています。日本IBMが何年も前から進めてハラスメントを誘発してきた手法です。
 日本IBMを見ていると、日本の3年後、5年後、10年後の姿が見えます。
 また私たちの裁判は「先導的な改悪をストップさせることになるので、社会的にも意義のあるたたかいだ」と自覚しています。