新型コロナ 乗じた改憲とんでもない 対策は総合的な政策でこそ

 新型コロナウイルス騒動に乗じて政権与党が“改憲”に前のめりです。「諸外国と比較して強制力のある対応が取れないため “改憲”で対応する必要がある」と強弁しますが本当にそうでしょうか。憲法・フランス公法を専門とする中央大学の植野妙実子名誉教授に聞きました。

中央大学 植野妙実子名誉教授に聞く

 ―新型コロナによる緊急事態宣言に乗じて、“改憲”の必要性に安倍首相が言及しています。
 植野 “国家緊急権”を憲法改正で盛り込むことに反対です。緊急事態を一般論として、憲法改正で憲法に入れるということは適当ではないと考えます。
 緊急事態にもテロもあれば、今回のようなウイルスや災害など多岐に渡ります。被害の内容が違うので取る手段が違います。求められる効果も違うので一般論として憲法に書き込んでも、その通りになるか予想がつきません。
 今回のような予測できない事態に、国家として取るべき行動は他にあります。騒動に便乗して“改憲”につなげようとするのはとんでもないことです。
 ―外国では都市封鎖が行われています。日本と比較しても民主主義を重んじる国で、暴動もなく対応できているのはなぜでしょう。
 植野 フランスでは新型コロナウイルス対策の緊急法をつくりました。これは公衆衛生法典等を改正しての対応です。国会両院で迅速手続きをとって、最終的には修正も入りましたが、両院合同協議会で一致して立ち向かう形での法律改正をしました。
 憲法には国家緊急権についての規定もありますが、それを使わず法律レベルでの対応をしています。コロナウイルスまん延防止という目的に効果的な手段をとるためです。法的な根拠が必要と判断し、法改正を行なわなければできないという考えに至りました。テロに対する緊急事態法とは全く違う形の法律を作って対応しました。

判断が不透明に

 ―緊急事態に改憲議論を持ち出すのは日本独特のものでしょうか。諸外国の動きはどうですか。
 植野 ヨーロッパでは欧州統一という形で国境を開放し、人、物、金の移動が自由にできるということを目指してきました。当初、EU諸国は国境を封鎖しないとしていましたが、1週間も経たないうちに感染者が増大してきたので、国境封鎖を決めました。EUの枠組み自体を批判している極右勢力は、EUのせいで国境封鎖が遅くなったと批判しています。
 ―日本では改憲に言及する政権与党が経済を止めないことを重視し、検疫体制の強化などについてはリベラル層が言及しています。
 植野 日本は取られている対応が不透明だといえます。最初は中国の武漢だけを入国禁止の対象にしてきましたが、中国各地に感染者が広がっているにもかかわらず全土を対象にしなかった。習近平主席の来日を前提にしていたのではないかと疑われています。また、「東京オリンピックの延期」が決まるかどうかが、対応に影響したのではないかともささやかれています。現に延期の決定後、PCR検査の実施件数が増えました。こうしたことで憶測をよばないように、どのような判断があったのか説明すべきです。しかしその辺は全くはっきりしていません。
 ―政権の政治姿勢でしょうか。
 植野 フランスでも5月11日まで外出禁止を伸ばすとマクロン大統領が発表しましたが、最初に「命が大切」だと明確に言い、「命を守るために今は人々の連帯、信頼、意思が必要」と具体的に国民に協力を呼びかけました。日本では命なのか経済なのかはっきりしません。
 命があってこその経済なのに、安倍内閣は「経済とのバランスをとる」としました。トーンダウンというかバランスをとるような発言が目立ちます。優先事項を明確化していないということが問題です。

思いつきの対応

 ―政府の対策は思いつきのように思えてなりません。
 植野 3月27日の学校の一斉休校には驚きました。メリットとデメリットを考えるのは当然で、子供の学習権の保障や、親が休めない子どもへの対応あるいは休業補償などとセットにして考えなくてはいけませんでした。しかし、専門家の意見も聞かず、省庁との調整もなく、首相が突然決めたという呆れた政策です。モリカケ、河井案里参院議員の公選法違反疑惑、検察官の定年延長など多くの問題を目眩ましして進めてきた安倍内閣ならではの「思いつき」と思われます。
 日本経済の98%を占める中小企業への補償も含めて対策をとる必要があります。また食糧自給率の低い日本は物流が止まると大変です。人権を尊重し、どのような影響が出るのか検討して総合的な政策として示すべきです。差別を絶対に阻止する、広げないという点もおさえておくべきです。
 欧州では新型コロナ問題で、行政改革による病院の統廃合などに反省の声があがっています。これを契機に日本も、市町村合併、保健所統廃合、公営病院民営化・統廃合等の検証を立ち止まって実施する時ではないでしょうか。