繰り返されるバス事故 人材不足で乗務過酷に

2020年2月17日

 昨年は4月の兵庫県神戸市での路線バスでの死亡事故に続き、12月には大手バス会社「はとバス」が西新宿で停車中のハイヤーに乗り上げる死亡事故がありました。なぜ、バスの重大事故が繰り返されるのか―。事故の背景について関係者に取材しました。
(菅原恵子)

乗客・乗員 命まもる改善急げ
 私たちの日常の足である定期運行のバスには駅を基点に地域を運行する路線バスの他、高速バス(主に都市間輸送、都市と観光地を結ぶものの中で高速道路を利用するもの)があり、全国で毎日1万5千本ほど運行されています。その他、観光や企画ツアーなどの貸切バスなど多岐に渡っています。
 事故が増加する中、国土交通省はバス事業者に向けて規制を強化。これまで以上に「人材確保が困難なので、大手より多く賃金を払わないと厳しい。予約がさばき切れない」と、海外観光客向けの小規模貸切バス事業者は話しています。
 京王新労働組合の佐々木仁執行委員長は「大手バス会社も深刻な人材不足のために、必要人員の8割の運転手で過酷なダイヤを支えている。低賃金化のために運転手も時間外勤務をして運行をせざるを得ない。処遇・待遇改善が急務」と警鐘を鳴らします。

閉まることない営業所
 バスの運行は電車の運行に大きく左右されます。例えば中央線の高尾駅では始発が午前4時半頃、終電は日を跨いだ午前1時半頃です。始発に間に合うように乗客を輸送するために、バスが出庫されるのは午前3時半頃。終電に合わせて駅郊外に走り、営業所に帰着するのが午前2時半頃になります。乗り越し客をターミナル駅まで送り届けるバスの運行もあるとのこと。「営業所は閉まることなく、コンビニエンスストアのようです」と佐々木委員長は過酷な実態を説明します。

低賃金化で安全を放置
 この間、大手バス会社は1989年以来の国の規制緩和を受けて分社化を進め、運転手を中心に従業員の処遇を切り下げてきました。中には乗務時間が年間で100時間増加したのに、年収は100万円下がったという運転手もいるとのことです。
 佐々木委員長は「低賃金のために新しい運転手が増えない。現在、働いている運転手は安い賃金を補うため、長時間働くしかなくなります。事故の原因と無関係ではありません」と告発します。
 また、バスの運転手は時刻表に合わせての変形労働のために体に負荷がかかり、乗客への対応も負担になる傾向があるといいます。急な体調不良などによる欠勤を認めず、忌引きでさえもペナルティとして勤務査定でマイナスとするバス事業者も少なからず存在します。
 バス事業者では対策に乗り出し、分社した会社を本社に戻し始めているといいます。しかし、同じ運転手でも賃金など処遇に格差があり、解消しなければならない問題が山積しています。

体調不良で無理に走る
 大手バス会社の中堅運転手は「90年代後半、1週間ごとに短距離路線バスと高速バスの運行を交互に担っていました。その時、今考えるとゾッとしたことがありました」と切り出しました。
 在籍は短距離路線バス営業所のため、応援で行く高速バス営業所にはものが言いにくい雰囲気があったと言います。冬場のある日、39度近くの発熱があり「休ませて欲しい」と上司に電話したところ、「当日の休みは無理だ」と叱責されて、中部地方行の高速バスに乗務しました。
 「意識がもうろうとして運転していました。高速道路のサービスエリアで乗客を降ろすはずが、通過しそうになって分岐点で慌てて降ろしました。今思うと恐ろしいです」と語りました。
 到着後、3時間ほどの休憩後、現地営業所で「とても運転できる状態ではない」と判断され、代行運行が手配されました。休養後になんとか帰着し“インフルエンザの診断”を受けたといいます。「当時から無理に走らねばならない風潮がある。路線バスから(応援に)来ているから、基準外の仕事と思っていると言われたくなかったし、満足にできないと思われたくなかった。本当に交通加害者にならなくて良かった」と運転手は振り返ります。
 昨年末、事故を起こした30代のはとバスの運転手は、自動車運転死傷処罰法違反の疑いで現行犯逮捕され、その後インフルエンザにり患していたことがわかりました。
 業界に蔓延する低賃金長時間労働、「無理して走る」風潮は、乗客・乗務員だけでなく、現場に居合わせた人々の命を危険にさらすことではないでしょうか。改善に向けた業界全体の取り組みが急がれます。