共闘の力、政権に 「黄信号」

2019年8月1日

インタビュー 参院選後の政治 自民党の「4つの敗北」

法政大名誉教授五十嵐仁さんに聞く

 日本の未来を問う選挙戦となった参院選(7月21日投開票)が終わりました。自民、公明、維新の改憲勢力が参院の3分の2を失う一方、安倍首相は「与党で過半数を維持した」と勝利を強調しています。結果をどうみるか、政治学者の五十嵐仁さん(法政大学名誉教授)に聞きました。

 ―安倍政権は、参院選で「国民の信任を得た」と語っています。
 投票率1%分で、約100万票が動くので、投票率が上がれば、与党敗北の大きな雪崩(なだれ)が起きると期待していました。残念ながら投票率は下がってしまいましたが、それでも「表層雪崩」は起きたと思います。
 その結果、自民党は4つの敗北を喫しています。一つは、改選前から9議席減ったこと。二つ目に、比例得票数を前回16年比240万票も減らしたこと。三つ目に、自民党単独過半数を参院で割ったこと。さらに、4つ目の敗北が、改憲勢力3分の2を失ったことです。
 4つも負ければ、十分でしょう(笑)。最初から「与党で過半数維持」という低い勝敗ラインを設定していたから、印象操作で「勝利した」と言っているだけです。

次につながる健闘
 ―野党の結果は。
 野党共闘について、マスコミは「一定の効果」と書いていますが、実際は「大きな効果」です。1人区での野党勝利が、改選2議席から10議席に増えたことが、自民党敗北の大きな要因です。
 3年前の参院選での野党統一候補の勝利が11で、今回は10と横ばいだと指摘されます。数を見るとそうですが、中身が大きく違います。
 2016年選挙では、32の一人区のうち、野党の現・前・元職が11人いました。それが今回は前1、元1だけで、後は全て新人候補です。
 新人候補は知名度の点で、大きく出遅れていました。選挙戦を10メートル後ろからスタートするようなものです。それが新聞各紙の序盤情勢予測での野党候補の厳しさに現れました。
 その状況から追いつき、ゴール手前で追い越して10人が当選した。共闘効果なしには、生まれなかった成果です。
 ―共産党は7人の当選でした。
 比例選挙で改選から1減らしたのは残念でした。ただ、2017年の総選挙に比べて比例票を伸ばしていますし、2016年の参院選では比例と選挙区合わせた当選が6人だったのを、今回は埼玉で新たに議席を得るなど7人当選させたことも、重要な点です。全体として、次につながる健闘だったといえます。
 東京では、吉良さんがすばらしい選挙戦を繰り広げました。ブラック企業問題をはじめ、この6年間の実績に大きな期待が寄せられました。
 ―低投票率については、どう見ていますか。
 マスメディアで、選挙戦をほとんど報じない傾向が強まったことが大きな要因でしょう。政権側も、予算委員会を開かず、改元フィーバーや米大統領来日などを政治利用して、参院選に関心が向かないように仕向けました。
 選挙後、メディアで低投票率が問題だと報道されていますが、だったら論戦をもっと伝え、選挙の関心を高めて投票率を上げるべきでした。

充実した共通政策
 ―総選挙での野党共闘が、次の大きな課題です。
 今回の野党の共通政策は、量の面でも質の面でも非常に充実しました。
 野党の共通政策は、16年参院選での4項目の「5党合意」が始まりです。このときは、政策的な内容は「安保法制廃止」の1項目だけで、他は選挙での協力などでした。17年総選挙では、市民連合からの提案を各党が合意する形で、7項目に増えました。
 今回の合意は項目が13に増えて、内容の面でも、1カ月ほどかけて各党が原案をもとに練り上げて充実させました。
 参院の1人区は32でしたが、衆院は全国289の小選挙区がすべて1人区です。ここでしっかりとした相互支援、相互協力の共闘をつくり、共通政策も練り上げれば大きな成果が出るでしょう。
 ―「政治の安定こそ争点」として参院選をたたかった安倍政権の今後をどう見ていますか。
 参院で単独過半数を失い、自民党だけで法案を通すことは不可能になり、安倍政権の「安定」には黄信号がともっています。
 世界を見れば、日韓関係の悪化、日米貿易交渉でのトランプ大統領からの要求、米中貿易摩擦、ホルムズ海峡への「有志連合」派遣、イギリスのEU離脱など、世界と日本の政治・経済に大混乱をもたらしかねない要因が積み重なっています。
 しかも、経済の冷え込みが明らかにもかかわらず、消費税増税に突き進もうとしている。「アベノミクス」の異次元金融緩和からの「出口戦略」もいずれ必要になり、国債暴落など経済のメルトダウンも大きな心配です。
 「安定」どころか、疾風怒濤が渦巻く大揺れの中での船出で、前途多難というべきです。