小学校教科書「政府見解」を徹底 展示会見て、意見を

2019年6月28日

子どもと教科書ネット21 鈴木事務局長に聞く
 来年4月から小学校で使われる新しい教科書の採択が、8月までに行われます。文科省の検定済み教科書の展示会が今、各地で開催中。子どもにより良い教科書を!の運動を進めている「子どもと教科書全国ネット21」の事務局長、鈴木敏夫さんに、新しい小学校教科書の特徴を聞きました。
 ―全体の特徴は。
 鈴木 一つ目は、国家、社会に貢献する「人材」づくりや「伝統と文化を尊重し…」などとした改定教育基本法の理念や教育目標を受け、文科省の学習指導要領改訂(2017年)にもとづいてつくられたものだということです。二つ目に指導要領では子どもの「資質・能力」を育てるために何を、どのように学ぶのかを強調し、主体的、対話的に学ぶアクティブ・ラーニングを押しつけるなど、学びが難しいものになっています。もう一つは、「政府見解」に沿った記述を求め、変わった教科書検定基準(2014年)などにもとづいたものだという、この三つがそろってつくられた初めての教科書です。

社会 憲法改正も
 ―具体的には。
 鈴木 社会(3社発行)では、領土問題の記述が典型的です。新しい検定基準に盛り込まれた「政府見解」にもとづいた記述が徹底されています。北方領土や竹島問題では、「日本の領土」と3社中2社が書いていましたが、それじゃだめだと「日本固有の領土」と修正させました。
 「学習指導要領解説」では、日本政府がロシアや韓国の不法占拠に、抗議や返還を求めていることなど、安倍政権の外交を全部、書くよう求めていますが、そうしたことが検定にも強く表れています。
 憲法改正問題は、学習指導要領では触れていないのですが、囲みで「憲法改正の論議」(教出6年)を取り上げ、改正論と改正反対論を載せています。一見、公平のようですが、憲法公布から長い年月が経ち、「その間に世の中は変化し続けています」とのべ、改正の手続きまで触れています。

道徳 心の押しつけ
 ―「道徳」(前回と同じ8社)はどうでしょう。
 鈴木 前回の検定で問題になったように、具体的な修正箇所を指示しないで「図書の内容全体」について、「学習指導要領の示す内容に照らして不適切」という指示が、私の調べでも7件ありました。
 例えば、教材「おかあさんのつくったぼうし」(日文1年)の最後につけた発問で、「かぞくについておもっていること」としたところ、検定で学習指導要領の「家族愛、家族生活の充実」の扱いが不十分との意見がつき、「だいすきなかぞくのためにがんばっていること」と修正して、認められました。「家族の役に立つ」という要素が不足していたというのです。
 同じく「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」(日文3年)の扱いが「一体として満たされていなかった」とされました。教科書会社は、「郷土を自慢する」という要素が足りないと推測し、4カ所を「じまん」するなどの記述に修正し、合格しました。
 前回、安倍首相の写真を掲載したり、「正しいあいさつ」を問うなど批判を浴びた題材の中には今回、なくなったものもあり、意見をいって声をあげることは大切だと思います。

英語 単語7百字も
 ―今回、初めての「英語」教科書(7社)は。
 鈴木 どの教科書も、文科省が昨年つくった学習指導要領対応の副教材「We Can!」に沿ってつくられています。目次が、いきなり英文で書かれている教科書もあり、小学校5、6年で、中学校の約半分の600~700語の単語・連語を習わなければなりません。子どもの負担は大変なもので、英語嫌いを作り出す恐れもあります。
 条件も整っていないのに、グローバル人材をつくるなどと、無理をして英語の教科化をすすめています。英語の免許を持っている先生を、2020年までに4千人にするといっていますが、全国に小学校が2万校もあります。どうするのでしょう。
 どんな教科書になったのか、誘い合って教科書展示会へ行き、教科書を手に取って率直な感想や意見を教育委員会へ寄せましょう。