巨額の事業費、問題山積み 老舗も「街壊さないで」 首都高「日本橋」地下化・再開発

2018年10月26日


1㍍に1億8千万円
 1㍍に1億8千万円。「日本橋」を覆う首都高速道路の地下化に、3200億円という巨額の事業費がかかる計画が決まりました。「日本橋に青空を」「日本橋に首都高はいらない」─。老舗からも都議会へ陳情が出されるなど問題が山積です。
 
 地下鉄日本橋駅の階段をあがると目の前に「日本橋」。首都高速道路の壁面に、徳川慶喜が書いた「日本橋」の題字が。「空がないなんてガッカリだ」。日中でも薄暗い「日本橋」で、見上げた観光客の口からつぶやきが漏れました。
 
 江戸開府以来、5街道の起点がおかれた日本橋地域。その象徴である「日本橋」が重要文化財なのに何と無残な姿か。青空が見える景観が失われてから55年。「日本橋に青空を」は住民にとってまさに悲願でした。
 
44万人署名運動
 2011年3月に起きた東日本大震災後、事態が動きました。老朽化した首都高も大きく揺れ、危機感を覚えた住民たちから「撤去」の声があがり、街あげての署名運動が起こったのです。
 
 中心となったのは、名橋「日本橋」保存会や日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会、7つある日本橋連合町会。企業も含む、街ぐるみの運動へ発展し、署名は44万2千人にも及びました。
 
 その先頭に立った名橋「日本橋」保存会の中村胤夫会長(元三越社長)。「今が撤去を求めるチャンス」と、出張先の地方でも訴えるなど全力をあげました。とくに注意を払ったのは、「日本橋のエゴ」にならないことだったと言います。
 
 中村会長の思いは、請願署名の趣旨そのものです。「日本橋」の上空はもとより、利用者が少なく、地域を分断しているところを撤去し青空を取り戻す。この活動が源流となり全国へ波及することを願い、首都高の見直しを促したものでした。
 
 昨年7月、衆参両院への署名提出を終えた直後のことです。石井啓一国交相と小池百合子都知事が、首都高日本橋区間1・8キロを地下化する計画を発表。44万人の「撤去」の願いを、国と都・区、首都高が逆手に取った形になりました。
 
 昨年11月、国交省と都が中心になり、「首都高日本橋地下化検討会」を結成。3回の会議を経てこの7月、地下化計画案(別項)が決まりました。
 
「日本橋に青空を」が原点
 中村会長は、防災上や日本橋に青空をとり戻す上で、「一つのスタート」として受け止めました。「新しいものと古いものが混在した、日本橋のDNAを引き継いだ街をつくるのが私たちの仕事」「街づくりは上からではなく、みんなで話し合いながらつくるもの」と強調します。
 
 ルネッサンス100年計画委員会の橋本敬会長(日本橋とよだ社長)も同じ立場ながら、「日本橋は日本一の商人の街。水辺を生かし、日本橋の景観を守って日本の顔にしたい。防災をしっかりして、街はこのままがいい」と、日本橋への熱い思いを語りました。
 
 日本橋の市街地再開発と結びついた首都高日本橋の地下化に、問題提起をする老舗も―。その一人は老舗和菓子店「栄太郎総本舗」6代目で、地元の重鎮、細田安兵衛さん(名誉区民)。高齢のため取材に応じてくれませんでしたが、地下化が動き始めた直後の日経新聞の情報サイト(17年9月)のインタビューに次のように答えています。
 
 「工期も費用もものすごくかかる。本当に地下化が唯一無二の方法なのか」「(首都高は)壊してしまうのが一番いい」
 
 もはやかつてのような車時代ではなく、パリやロンドンでも街中に高速道路はない。そう言って日本橋の首都高「撤去」を主張しました。
 
 日本橋で300年、漆器・黒江屋の社長、柏原孫左衛門さんもその一人です。今年の2月、日本橋の街づくりと首都高に関する陳情を、社長名で都議会に提出しました。
 
 その内容は①老朽化した首都高の更新にかかる税金がどのくらいか、全体像を明らかにしてほしい②老舗が多くある日本橋で、10年以上かかる工期の間、商売ができないことになれば、日本橋の商業を失う。400年以上続く歴史を失ってまで、日本橋の首都高地下化は必要ない③大きな高いビルが立ち並ぶ景色ではなく、「日本橋らしい」街づくりを民間に任せてほしい―というものです。
 
動いた大物議員
 地下化の動きの背景にあるものは─。地元の重鎮の一人は、ある出来事を話しました。署名運動が始まった頃、自民党本部の“大物議員”を訪ね、首都高「撤去」のお願いをしたとき、次のように言われたといいます。「それはダメだ。道路は壊したら新しいものを造らなければならない。署名を集めても最後は政治家の判断だ」
 
 大物議員の指示で、すぐ国交省を訪れました。「地下化の話はこうして動いてきた」と言います。
 
 住民からの問題提起や都民参加を求める声に、都や区は「大きな一歩を踏み出した」「具体化を進めていく」(小池百合子知事)などとのべるだけで答えていません。「(住民へ)説明し理解を求めていくが、首都高をなくすことは考えていない」(都都市整備局の澤井正明街路計画課長)と強気です。
 
抜本策を都民参加で 共産党 曽根はじめ議員
 首都高日本橋付近の地下化計画について、小池知事は異常なほど前のめりの姿勢をとってきました。第3回定例会の所信表明では、事業費計画を含めて事業の具体化を表明しました。
 
 わが党は代表質問(9月26日)で、全国紙でも費用と効果のみきわめをと慎重な対応を求める社説が出されていること、事業費は外環道の1・8倍であり、さらに今後膨らむことが予想され、都が莫大な負担を負いかねないこと、地元住民の願いは“日本橋に青空を”が原点であり、地下化計画はこれを逆手に取るものであることなどを示し、首都高の補強やつくりかえのあり方については、都心環状線の撤去を含め抜本的な対応策を確立する検討を都民参加で行うよう求めました。
 
 しかし小池知事は「東京の価値ある象徴」などとのべて、コストを精査しながらも具体化を進めると答弁。私たちは、あらためて地元の住民や商店などの要望をもとに、大企業優遇の象徴ともいえるこの計画の抜本的な見直しを求めてがんばりたいと思います。