東京五輪選手村9割引き~都有地売却なぜできた

建設コンサル使い都が当初から検討~開発企業のもうけを優先

東京都が2020年東京オリンピック・パラリンピック大会の選手村整備の名目で、中央区晴海の都有地を近隣地価の9割引きの格安価格で開発業者に売却したことが大問題になっています。

土地を売却する際に必要とされる財産価格審議会での了承を回避するなど、都が建設コンサルタント会社の報告書をもとに、市街地再開発事業の手法を導入したからくりと経過が、「しんぶん赤旗」の取材で明らかになりました。

パシフィックコンサルタンツが都に提出した東京五輪の選手村開発方針検討支援業務報告書
パシフィックコンサルタンツが都に提出した東京五輪の選手村開発方針検討支援業務報告書

選手村用地(約13.4ヘクタール)は、東京駅から直線で約3.5キロの至近距離にある都心の一等地です。

小池百合子都知事は2016年12月、五輪選手村整備の名目で、東京ドーム2.9個分の都有地を三井不動産、住友不動産、三菱地所レジデンス、東急不動産、野村不動産など11社グループに129億6,000万円で売却する契約を結びました。

1平方メートル当たり9万6,784円で、近隣の基準地価の10分の1以下です。

「しんぶん赤旗」は都に情報開示請求を行い、建設コンサルタント会社のパシフィックコンサルタンツ(東京都)に委託した「選手村開発方針検討支援業務報告書」(2013年9月)を入手しました。

報告書は、民間事業者を活用して選手村整備に当たって七つの事業手法を、民間事業者や都側の視点からの評価を含めて比較検討。第一種市街地再開発事業が最適だと結論づけました。また平均容積率350%とし、土地の譲渡価格を110億円と試算しました。

市街地再開発事業は、東京都が唯一の地権者であり、かつ個人施行者であると同時に、事業の認可権者である都が認可するという一人三役の手法です。

報告書では、土地の代金支払いと所有権移転の時期を東京五輪大会後に先延ばし(実際は2022~2023年度)にでき、金利負担が軽減され、固定資産税の課税期間が短縮できるなど、開発企業に最も有利な手法と評価しました。

その一方、報告書は通常の土地譲渡や定期借地権方式などは低く評価しています。都の意見を反映した「都の視点からの評価」では、土地譲渡方式は「都の財産価格審議会に基づく価格設定を行う必要がある」ことをデメリットとし、格安処分が難しいことを示唆していました。

都は2014年、報告書をもとに選手村整備を市街地再開発の手法で行う方針を決定。
都オリンピック・パラリンピック準備局は「しんぶん赤旗」の取材に対し、報告書を受けた2013年9月に秋山俊行副知事(当時)に説明、2014年2月に舛添要一知事(同)に報告して了承を得た際、「報告書もひとつの素材として、知事への説明資料をつくった」と説明しています。

「都政版森友事件だ」

都と企業が癒着

大手不動産会社を中心にした11社は、東京ドーム2.9個分もある中央区晴海の都有地を周辺価格の9割引で取得し、2020年東京五輪・パラリンピック大会の選手村整備の名目で、50階建て超高層マンション2棟を含む23棟(約5,650戸)のマンションと商業棟を建設し、晴海を巨大マンション地帯に改造する計画です。

選手村事業を受託したのは、特定建築者と呼ばれる三井不動産レジデンシャルを代表企業とする11社グループです。

都は2016年に選手村整備を行う特定建築者を公募。その公募要項で土地の最低売却価格を1平方当たり9万6,784円(総額129億6,000万円)に設定し、競争相手がいないことを察知していた同グループが最低価格で応募し、無競争で選定されました。

選手村用地処分をめぐっては、「都政版森友学園事件だ」と批判が上がりました。

都民33人が昨年8月、都の行為は市街地再開発制度を脱法的に乱用し、地方自治法、都財産価格審議会条例などに違反しているとして都に対して舛添要一前知事と小池百合子知事らに値引分を請求することを求める住民訴訟を起こしています。

手法明らかに

しかし、これまで都が都心の一等地を、なぜ不動産会社に超格安で売却できる第一種市街地再開発事業という手法を導入したのかという検討経過については、明らかにされていませんでした。

その経過が、「しんぶん赤旗」が入手したパシフィックコンサルタンツの「選手村開発方針検討支援業務報告書」で明らかになったのです。

土地代金を9割も値引きした上、代金の支払い時期も優遇しています。港湾局の場合、都有地の土地代金の支払い時期は売却契約の1カ月後が通常ルールです。ところが選手村用地の場合は、契約時に土地代金の1割を保証金として支払っただけで、代金の支払い時期は五輪大会後の2222~2223年としています。

住民訴訟原告団の淵脇みどり、千葉恵子両弁護士は言います。

「報告書が土地譲渡価格の水準を110億円とはじき出し、都の土地売却額を近隣地価の10分の1に誘導した疑いもある。
都有地を売却する際に必要な都財産価格審議会の検討を逃れるなど、地方自治体の本旨である住民の福祉に反する行為だ。
小池知事は 速やかに土地価格を適正価格に変更して推定1,209億円に上る都の被害を回避すべきだ」

問題はそれだけにとどまりません。

選手村整備を 受託した不動産会社のうち7社に、都幹部12人が天下りしているのです。(右表、「しんぶん赤旗」2017年3月14日付既報)

都議会では日本共産党都議団が都有地の格安処分に一貫して反対してきました。
本会議議代表質問で「デべロッパーファースト」の選手村利用計画の抜本的見直しを要求。
都議会特別委員会でも、選手村の超高層マンションは、民間デベロッパーの意向を受けたものではないかと追及しました。

小池知事の答弁は「適正に土地価格を算定、公正な手続きにより民間事業者を公募したと聞いている」と言うにとどまっています。

元幹部も批判

都は2020年五輪の立候補ファイル(2012年)で、選手村は「都民や国民にとっての永続的なレガシー(遺産)になる」と明記しています。

これには、元都幹部も「デベロッパーに儲けさせるだけで、公共住宅を1戸も造らない選手村は、レガシーとは言えない」と批判します。

選手村用地の売買契約を結んだのは小池知事自身です。
「都政の透明化」「税金 の有効活用」を貫くというのならば、疑惑の向けられている選手村整備事業を自ら検証し、計画を見直すことが求められています。

土地評価行う審議会逃れ ひどい

NPO法人区画整理・再開発対策全国連絡会議の遠藤哲人事務局長の話

NPO法人区画整理・再開発対策全国連絡会議の遠藤哲人事務局長
NPO法人区画整理・再開発対策全国連絡会議の遠藤哲人事務局長
東京都が早い段階から、晴海選手村の整備を民間事業者のもうけを優先する手法として、都市再開発事業で行うことを検討していたことを裏付ける報告書だ。都有地を売却する際に都財産価格審議会で土地評価を行うことが必要なのに、審議会を逃れて格安処分をする手法に誘導していたことを裏付けている。区画整理や再開発などを監督・指導する責任がある都が、民間企業に事業手法を丸投げして土地ロンダリングを行ったに等しい、あまりにもひどすぎる行為だ。

(2月19日付「しんぶん赤旗」より)