世界との医療の差、浮き彫り 医師数と医療費増が不可欠

 都内の新型コロナウイルスの感染拡大が加速し、都民の不安が広がっています。コロナ禍から都民の命と暮らしを守るために、日本の医療と、都政に求められることは何か。医師で医療制度研究会副理事長の本田宏氏、都議会厚生委員で看護師でもある、日本共産党の藤田りょうこ都議(大田区選出)に聞きました。

医療制度研究会・医師 本田宏さん
 ―第二波と言われる現状をどう見ていますか。
 感染者数の増加の現状を見れば、明らかに大きな波が来ており、今は第二波と見て、対処しないといけない局面です。政治に、その危機感があまりになさすぎる。だからGOTOキャンペーンのような政策がとられるのでしょう。
 ―第一波で、医療崩壊の寸前とも言われる、深刻な状況が生まれました。
 感染症は、世界の年間死者数の3分の1を占める、極めて普遍的な病気です。このため、2008年に日本感染症学会は、日本の300床規模以上の医療機関(約1500施設)すべてに感染症専門医が常駐すべきだと提言し、専門医を3千人から4千人程度に増やすよう見解をまとめています。
 2010年の時点で、専門医の数は1015人でした。今年1月には1500人まで増えていますが、まだ学会が目標とした規模の半分以下です。
 日本には400の感染症指定医療機関がありますが、そのうち学会が認定する専門医が在籍しているのは144で、半分にも達しません。
 私はたとえ話で、「ラーメン店が急にフランス料理をつくれと言われても、できません」と話しています。新型コロナという、感染症の専門家でも対処が難しいウイルスに、専門家ではない医師やスタッフが対応しなくてはならなかった。これが日本の多くの医療機関の実情だったのです。

理不尽な医療費で
 ―重症化した患者の受け入れ先の少なさが大きな課題になりました。
 ICU(集中治療室)の病床数を世界各国で比較すると(グラフ)、日本は非常に少ないことがわかります。
 集中治療の専門医も、ドイツでは人口8千万人に対して、8千人います。人口1万人に1人の集中治療専門医がいることになり、人口1億3千万人の日本でいえば、1万3千人の計算です。現在、日本の集中治療専門医は1850人にすぎません。
 ―感染拡大が進む一方、医療機関の経営危機が深刻化しています。
 原因は、厚労省がずっと、医療費を低く抑えてきたことにあります。
 私は長く外科医をしてきましたが、盲腸の手術を1回やって日本の医療機関に入る金額は30~40万円ほど。米サンフランシスコでは250万円、英ロンドンで152万円、仏パリで113万円ほどが病院の収入になります。
 医療費という公定価格が、他の国の数分の1に抑えられているのです。
 よく経済界の人から、日本の医療機関は経営努力が足りないと言われますが、もし自動車会社が、他の国のメーカーと同じ性能の車を、3分の1や7分の1の値段で売れと言われたら、もうけることができるでしょうか。
 こうした理不尽な医療費設定の結果、日本の病院の平均の利益率(損益差額率)は、一般の医療法人でも、わずか1・8%とギリギリの黒字です。このため、新型コロナのような危機が来ると、一気に経営が悪化してしまうのです。
 こうしたなかで、感染症対策や救急、島しょの医療など、採算がとりにくい大事な分野を担ってきたのが、都立などの公的な病院です。都の都立病院への繰入金は、予算のわずか0・54%です。これすらも削減しようと、都立病院を独立行政法人化しようという都の姿勢は、コロナ対応の視点からも大問題です。

医師は13万人不足
 ―日本の医療が危機を乗り越える処方箋は。
 医師数と医療費の抜本増加が不可欠です。
 2018年12月31日現在、日本の医師数は、32万7210人です。これを、OECDの人口当たりの平均医師数並みにしようとすると、45万8094人必要です。日本は世界で一番の高齢社会なのに、OECDの平均よりも13万人も医師数が少ない。
 これが、感染症専門医や集中治療専門医などが足りない根本原因です。
 医療費については、厚労省が医療費を低く抑える一方で、サラリーマンの窓口負担は3割と、国民の窓口負担は先進国最高にしています。私たち医療者が、医療費をあげてくれというと、国民から、自分たちの窓口負担が増えると反対の声が上がってしまう。国民と医療者が分断されてしまっています。
 先進国では医療の窓口負担はごく少ないのが当たり前です。新型コロナは、世界的な危機のため、否応なく、世界と日本の医療の差を明らかにしてくれました。そうすると、日本の医療の現状のおかしさも、よく見えてくる。このコロナ危機は、日本の医療を立て直す、最後の機会だと思っています。
(聞き手・荒金哲)