【都知事選】宇都宮健児さんインタビュー “生存権かかった選挙 何としても勝利する”

東京都知事選(18日告示、7月5日投票)に立候補を表明した元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児さん(73)は、ヤミ金融問題、反貧困運動、そして今、新型コロナウイルス感染と、一貫して窮地に陥った人のために運動を続けています。貧困と格差、社会悪とたたかう弁護士であり市民活動家です。

「しんぶん赤旗」都知事選取材団による宇都宮さんのインタビュー記事が「しんぶん赤旗」に掲載されましたので紹介します。

―いよいよ告示が目前です。

宇都宮健児さん
宇都宮健児さん

5月57日に都庁で立候補表明してから、短期間の間に予想以上の反響がありました。

いろんな市民団体が推薦決定をしてくれ、文書を事務所に持ってきてくれたところもあります。政党では日本共産党、社民党、新社会党、緑の党、そして野党第1党の立憲民主党も応援を決めてくれ、勇気づけられています。

うめき声遠い政府

―コロナ危機の中での選挙になりますね。

反貧困運動の仲間と一緒に電話相談を行いましたが、非正規労働者、シングルマザーといった弱い立場の人が仕事、住む場所を失っている悲痛な声が寄せられました。それらの声をまとめ、政府に「国民のうめき声を聞け」というサブタイトルをつけた緊急要望書を4月に出しました。

政府は国民のうめき声と遠いところにあるように思います。10万円の給付金も休業への支援金もなかなか届かない。施策に緊迫感がなく、「アベノマスク」という的外れなものが多い。都政も感染症患者を受け入れて頑張っているのが都立・公社病院なのに、それを医療の質を低下させる、民営化に近い独立行政法人化を行おうとしています。やることが逆ですね。

コロナ危機の下で経済効率最優先の新自由主義に基づく政治、社会の在り方が問われています。非正規雇用を増大させ、医療・福祉分野を削減、民営化してきた社会が、感染症という危機に、いかに弱いかということを露呈しました。

次々破られた公約

―小池都政をどうみますか。

2016年に反自民の改革を掲げ、小池さんが知事になった直後に、築地市場移転反対の要請をしたら、「立ち止まって検討する」と表明したので「おやっ」とは思ったんです。2017年の都議選で「築地は守る。豊洲は生かす」といって小池さん率いる都民ファーストが大勝しました。でも結局、豊洲に移転し、築地に市場機能を残すという公約は破られました。

情報公開、五輪の経費削減、多摩格差ゼロといった公約も破られました。改革を掲げた小池都政ですが、それ以前の自民、公明が支持してきた都政のさやに納まったということだと思います。

都知事選は都民の生存権がかかった選挙です。都民の命と暮らしを守る都政を何としてもつくりたい。

毎日、地べたで苦しむ人に手を差し伸べるのが政治だ~父の姿と弱者の声

―サラ金、反貧困、コロナ危機・・・。社会的に弱い立場にある人のための運動を続ける、その原動力は何ですか。

うーん。私の出身地は愛媛の半農半漁の200戸くらいの貧しい漁村でしたが、小学校3年の時に大分県の国東(くにさき)半島に開拓農家として入植しました。
戦争で足が不自由になった父が、足をかばいながら農地を切り開いていく姿を見て育ったことが、一つの背景としてあるかと思います。

あと一つ、困っている人が私の背中を押したということがあります。弁護士としてサラ金問題に取り組むようになりましたが、みんな事情があるんです。

失業したり、病気になって収入がなくなって、高金利だとわかりながらお金を借りて、返せなくなって、暴力的脅迫的取り立てにあうわけです。そういう人が相談にくると「何とかしてあげないと」と思いますよね。私もサラ金業者から嫌がらせを受けますが、私が引っ込んだら、私より弱い立場の人をサラ金業者が襲っていきます。だから引っ込めないわけです。

貧困問題がなくなれば終わりということかもしれませんが、これもなくなりませんから・・・。

遅れた政治変える

―海外の例も見てこられたとか。

ドイツ、フランスでは高金利被害はありません。銀行がきちんと融資をするし、社会保障が日本より充実していますから、収入がなくなっても、すぐ生活が破綻するということはありません。

日本での私の活動の話をドイツ、フランスの弁護士にしたら、彼らは「そんなことは、行政がやることじゃないか。なんで弁護士がやっているのか。弁護士はもっと金もうけすればいいんだよ」と言うのです。

同じ資本主義経済の国でも社会の仕組みをかえれば、高金利被害はなくなるということを知ったことは大きかったです。

日本の政治は遅れています。今回のコロナでの対応も、ドイツはメルケル首相の演説は率直で国民との距離が近い。援助金も日本のように時間がかからず、支給されています。また生活保護の施策もコロナ感染拡大ですぐに改正し、収入要件、住宅要件を大幅に緩和して対応しています。

私が都知事選に立候補するのは、ずっと携わっているサラ金や貧困の問題解決には、根本的には政治を変える必要があるからです。毎日、地べたで苦しんでいる人に手を差し伸べるのが行政であり、政治だと思います。

宇都宮さんが指摘する都政課題~緊急3課題

(1)医療体制充実と休業要請等に対する補償の徹底

(2)都立・公社病院の独立行政法人化の中止

(3)カジノ誘致計画中止

重視する8課題

(1)学校給食の完全無償化

(2)都立大授業料の半額・無償化

(3)都営住宅建設、家賃補助・公的保証人制度など

(4)公契約条例、正規労働者を増やす

(5)災害対策の強化

(6)外環道など道路計画の見直し

(7)羽田新飛行ルート反対

(8)温暖化対策強化、都市農業守る

 
「腎臓売れ!」脅しに抗し 高金利被害救済へ奔走

1980年後半からサラ金の広告が出回ります。商工ローンの「腎臓売れ!肝臓売れ!目ん玉売れ!」という取り立てにたまりかねた保証人が音声を録音し、宇都宮さんの法律事務所に駆け込んできました。

「東京クレジット・サラ金問題研究会」の事務局長も務めた宇都宮さんは電話の主を告発し、国会にも働きかけ、貸金業規制の流れをつくっていきます。

1999年に「商工ローン規制法」が成立しますが、今度は非合法のヤミ金が問題になります。全国の弁護士らで全国ヤミ金融対策会議を結成。宇都宮さんは代表幹事として奮闘。ヤミ金融対策法を成立させ、ヤミ金業者を追い込みました。30年以上の取り組みで高金利の隠れみのになっていたグレーゾーン金利を撤廃させました。

反貧困ネット・派遣村・・・当事者に寄り添い続けて

革新都政をつくる会の臨時総会で参加者から激励される宇都宮氏=8日、東京都千代田区(WEB版「しんぶん赤旗」より)

日雇いを転々とするフリーター、DVから逃れたシングルマザー、自己破産した多重債務者…。貧困の当事者が声を上げようと2007年に反貧困ネットワークが結成され、宇都宮さんが代表、湯浅誠さんが事務局長を務めました。

約1年後にリーマン・ショック、金融危機が世界を襲います。「派遣切り」「雇い止め」にされた非正規労働者は全国で数十万人と推定されています。
寮や社宅を追い出された労働者が年末の寒空、路頭に迷います。

宇都宮さんたちは東京の日比谷公園に2008年12月31日~2009年1月15日まで「年越し派遣村」を立ち上げ、簡易宿泊所を設置し、ボランティアの医療スタッフが健康相談に乗り、弁護士が法律相談に乗ります。

「日比谷公園に行けば食事と寝る場所があるらしい」。関東一円から行き場を失った500人以上の人が「派遣村」にたどり着きます。
同名誉村長が宇都宮さんでした。

コロナ危機では電話相談・基金設立

今回のコロナ危機―。反貧困に取り組んできた弁護士、活動家の仲間とともに宇都宮さんは電話相談にも取り組み、その声をまとめて政府に要望書を提出しました。

また、反貧困、労働、自立支援などの団体が結集し、「新型コロナ災害緊急アクション」を3月下旬に結成し、「緊急ささえあい基金」を呼びかけ。現在、1200人以上の人から5,600万円を超える寄付が集まっています。

住まいの貧困 解消に期待 都営住宅増設提案は画期的

NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長 大西連さん

NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長 大西連さん(WEB版「しんぶん赤旗」より)

宇都宮さんは、年越し派遣村の名誉村長もして、非正規労働者が住宅問題を抱えていることをよく知っておられます。生活が苦しい状況にある人の事をよく理解し、その視点に立つことができる人だと心から思います。

また、宇都宮さんとは、2014年から新宿区で「新宿ごはんプラス」という生活困窮者支援の活動で一緒に共同代表をしています。

この間、宇都宮さんが借金問題で困っている人からの電話に1時間も傾聴して相談にのる姿などを見てきました。生活保護の申請や借金問題で宇都宮さんに手伝ってもらった人はみんな「(宇都宮さんは)信頼できる人だ」と口をそろえて言いますよ。

石原都政以来、都営住宅を増やさない政策が続くなか、都知事選で、都営住宅を増やそうと提言していることはすごく画期的なことです。

いま、ネットカフェで生活する人や住まいの不安定さを抱える人、老朽化したアパートからの住み替え先がなくて困っている高齢者がいます。一人ひとりに寄り添い生活基盤を整えることを都政の重要課題の一つにしてくれる候補者は他にいないと思う。

生活者の視点に立って考えてくれる宇都宮さんにすごく期待しています。

(2020年6月14日付「しんぶん赤旗」より)