「消費税で自立阻むな」 福祉の現場 10%増税に悲鳴

2019年10月15日

 今月1日、消費税が10%に増税されました。食料品の税率8%据え置き、短期的なキャッシュレスでのポイント還元などで、政府は「(低所得者や景気)対策の効果がある」と強弁します。しかし、実態はどうでしょうか。「消費税が自立を阻む」福祉の現場から見つめました。   (菅原恵子)

生活保護利用者 削るのはまず食費

 度重なる生活保護費の削減の違法性を問う「新生存権裁判」の原告でもある佐藤孝一さん(52)、めぐみさん(41)夫妻(町田市在住)は精神疾患を抱えています。通院しながら福祉作業所に通い、生活保護も利用して暮らしています。
 年々削られる生活保護費。消費税が10%に増税された1日から、さらに引き下げられました。2012年と比較すると佐藤さんの世帯で約7,000円が削減されています。一方、食料品などが高騰しており、国の消費税増税分を含めると実質支給額がさらに低くなっています。この日、2人は開口一番、「自宅そばの停留所から町田駅までのバス代が10円値上げされていました。交通費の値上げは深刻です」と訴えました。
 孝一さんは「国産の肉は買ったことがない。夜9時閉店のスーパーで、割引シールを目的に2人でぐるぐる回る」と言います。「8時以降の半額セールが目当て。おかずは2人で300円以内と決めています」とめぐみさん。「冠婚葬祭や友人に食事に誘われても、応えられない。不義理になってしまいます」と嘆きます。

 めぐみさんは「朝晩が涼しくなって秋物の衣類などの購入を考える時期ですが、まず最初に食費を削らないといけません。電化製品の故障なども考えると頭が痛い」と話します。
 孝一さんは呼吸器疾患で身体障害者手帳を持っています。さらに腓骨神経麻痺にかかり左足が不自由になり、膝下からかかとまでを支える短下肢装具の一日中の着用が必要です。普通の靴が履けないので、短下肢装具を装着してからサンダルを履きます。どうしても足を引きずってしまうために、1週間ほどでサンダルの底に穴が開いてしまいます。「雨の時は困るね」と頭をかきました。1000円以内の安いサンダルを探して歩くことも日常生活の一幕。「この前、400円のサンダルを見つけた。でも、いつもあるわけじゃない」といいます。

 めぐみさんは「生活保護費が減らされた分、働かなくてはと思います。発熱でも福祉作業所を休まない日があります」と語ります。「ポイント還元なんて、クレジットカードが作れないから恩恵ない」と孝一さん。
 2人は「福祉のための消費税って言われても苦しくなるばかり、頼むから安倍首相は戦闘機の爆買いやオスプレイを買う分を、福祉など別のところに回して欲しい。こんな生活していたら病気も治りません」と訴えます。(佐藤さん夫妻はともに仮名)

障害者施設 利益減り運営大変


 都内にある障害者就労支援施設の豆腐店。障害ある人らが製造した豆腐やお弁当などを、地域のつながりを感じながら販売しています。
 商品は食品だけなので消費税は8%のままですが、「食品の容器、割り箸、レジ袋、みりんや料理酒は10%になり、利益が削られていく」と、店長は顔を曇らせます。
 消費税は客から預かった消費税から、仕入れ時に事業者が払った消費税を差し引いた金額を税務署に納めます。食料品店では客から8%の消費税しか預かれないので、支払った10%を差し引くと2%分が持ち出しになり、利益が減少する仕組みです。
 送料も物流の値上げと消費税増税でコストを圧迫しています。「送料の2%分は、お客さんに負担してもらっています」と言うものの、「1円でも安い方に流れるご時世なので、1日に値上げはしませんでした。お客さんから心配の声がありました。現にここ数日の売り上げは下がっています」と店長。梱包用品などの高騰が続き、さらに消費税増税で仕入れ値自体が経営を圧迫します。

 店長は「年内は値上げをしないで頑張ってみようかと思っていますが、値上げするのも大変です」と言います。障害ある人は障害の特性によっては、1円単位のお釣りの識別が困難なこともあるために、10円単位での値上げになるとのことです。「消費税が8%になった時、10円値上げしたらお客さんが離れました。消費税増税はたとえ2%でも、じんわりとダメージが効いてくる」と話します。
 「作業所から利用者へ支払う賃金を、いかにして捻出するのかも考えなくてはいけない。消費税は障害者の自立を阻む税金です」

社会保障のためというが…
 政府は、消費増税を「社会保障のため」と説明しています。
 実際は、消費増税の一方で、大企業や富裕層への減税が繰り返されました。また、消費増税による消費不況が、税収の増加を妨げてきました。
 消費税が導入された1989年からの31年間で、消費税収は397兆円に上ります(17年度までは決算額、18年度は補正後予算額、19年度は予算額で計算)。他方で、法人税など法人3税の減収額は累計で298兆円、所得税・住民税の減収額は275兆円です。消費税の税収分をはるかに超えています。
 消費増税が、法人税や所得税などの減収の穴埋めに消えてしまっており、社会保障の財源は生まれていません。消費税だよりの財政運営をやめ、消費税の減税にふみだすべきという声が広がっています。