生活保護はみんなの砦 削減は暮らしに大打撃

2019年5月10日

新生存権裁判原告団 佐藤宙弁護士に聞く
 4年前からの度重なる生活保護費削減は「人間の尊厳を踏みにじる」憲法違反として、国と地方自治体を相手取り、その削減の違法性を問い、減額決定の取り消しを求める“東京新生存権裁判”が昨年からたたかわれています。生活保護基準額は他の社会福祉制度に大きく影響を与えるものです。生活保護制度は“社会保障制度の基本”だと新生存権裁判弁護団の佐藤宙弁護士は訴えています。
 崖を歩いているところを想像して下さい。ちょっとした出っ張りに引っかかったり、強い風にあおられたり、疲れて足がもつれて踏み外してしまったら落ちてしまいます。

 その崖の側面には医療保険制度や障害年金制度、介護保険制度など、いくつもの落下防止ネットが張ってあります。たいてい、どこかのネットに引っかかって谷底に落ちなくても済みます。
 どのネットにも引っかからず、谷底に落ちてしまう直前に、すべての人を対象とする最後のとりでが生活保護制度です。
 国が恩恵や施しで行なっているのではなく、“憲法上の人権を実現するため”に制度をつくっています。
 憲法第25条で“生存権”は健康で文化的な最低限度の生活を保障(キープ)することはもちろん、それだけではなく、社会保障を増進する義務を国に課したもの。先ほどの落下防止ネットは国の義務なのです。
 生活保護制度は、個別の社会保障制度の対象から外れてしまった人の暮らしと命を守るためのセーフティネットであるとともに、他の社会保障制度の基準にもなっています。
 生活保護費の削減は他の社会保障制度の給付水準や給付対象と連動します。就学援助制度の他、国民健康保険料、医療費の減免制度、介護保険料・利用料、入院助産制度、住民税非課税など47項目の社会保障制度の基準であるために、引き下げの影響は3100万人にも及びます。生活保護費削減は、社会保障制度削減に大きく道を開くものです。

引き下げの根拠ない

 安倍政権は社会保障費の削減を基本政策に据え、自助自立を強要しています。生活保護費は2013年、14年、15年と連続で削減され、18年には食費や光熱費にあてる「生活扶助」を一律5%引き下げました。生活保護利用者は「食料品の値上がりが続き、これ以上切り詰めようがない」と訴えています。
 裁判で佐藤弁護士ら原告弁護団は政府が理由としている①歪み調整(90億円)②デフレ調整分(580億円)の引き下げの根拠が明らかに間違っている―と指摘。特に②については、国で何らの専門部会での検討もないまま強行され、内容的にも破たんしており、自民党の公約実現のために結論ありきで、今回の引き下げが行われたことの象徴だとしています。また、デフレの中心はパソコンやDVDレコーダーなどの家電製品の値下げで、じゃがいもや玉ねぎなどの食料品は高騰している事実を明らかにしています。
 生活保護費の削減は制度利用者のみでなく、ひとり親家庭や子育て世帯、高齢者世帯を直撃するものです。
 佐藤弁護士は「新生存権裁判の原告のみの問題でなく、憲法25条が保証する“生存権”がおびやかされている事実に目を向け、大きく声を広げる時です」と裁判支援の重要性を強調しています。次回公判は14日午後2時、東京地裁で。