姿消す劇場・ホール 芸術創造に欠かせない場

2015年2月21日
1月いっぱいで閉館した青山劇場=東京都渋谷区
1月いっぱいで閉館した青山劇場
=渋谷区

貧しい文化予算「国は支援を」

演劇や音楽、バレエなど舞台芸術に欠かせない劇場・ホールが近年、首都・東京で相次いで姿を消しています。劇場・ホール閉鎖問題の波紋を追いました。

「この10年間で見ると公共、民間を問わず、東京から毎年のように、劇場・ホールがなくなっています。私たち演劇人にとっては芸術創造の基盤がなくなるという根本問題であり、国民にとっては文化鑑賞権が奪われかねない事態が進んでいます」。こう語るのは、61の劇団・プロデュース団体で構成する日本劇団協議会の福島明夫専務理事です。

東京ではこの10年で、朝日生命ホール、三百人劇場、新宿コマ劇場、シアターアプル、シアタートップス、東京厚生年金会館、カザルスホール、東京都児童会館、前進座劇場、ル・テアトル銀座など、相次いで劇場・ホールが閉館しました。

今年に入っても、1月いっぱいで、ミュージカルなどに愛用されてきた青山劇場、完全円形型の舞台を備えた青山円形劇場が閉館したばかりです。3月には「室内楽の聖地」といわれ音楽関係者に親しまれてきた津田ホールの閉館も決まっています。

バレエ公演の拠点が閉館か

バレエ公演で親しまれてきたゆうぽうとホール=東京都品川区
バレエ公演で親しまれてきた
ゆうぽうとホール=品川区

バレエ界に衝撃を与えているのは五反田・ゆうぽうとホールの閉館問題です。

同ホールは年間150日もバレエに利用され「バレエ公演の一大拠点」(ホール公式サイト)といわれてきました。ところが突然、今年9月で「ホール予約の停止」を関係者に通知。建物を保有する日本郵政は、「赤字と老朽化」を理由に「今後の活用方法は検討中」としています。

ホール事務室の小室憲二支配人は「舞台機構のメンテナンスは必要ですが十分使えます。楽屋の数も多く、使いやすいと重宝されてきただけに残念」と肩を落とします。

昨年9月に設立されて日本バレエ団連盟の高橋典夫理事長は、「バレエ公演のためには舞台に一定の広さが必要で、条件を満たす劇場は首都圏でも数えるほど。『ゆうぽうと』は私たちにとって必要不可欠」と話します。

「日本人ダンサーは世界的コンクールでたびたび入賞していますが、国のサポートも乏しく、優秀な人材が海外へ流出しています。このうえ劇場がなくなれば日本バレエは衰退していかざるをえません。日本は他国に比べても、舞台芸術への国の助成が乏しい。劇場への税の優遇措置も含めて考え直してほしい」。

固定資産税の軽減求める声

文化を自由に創造し享受することは国民の権利。そのための条件を整えるのは国の責任です。劇場・ホールは、創造・鑑賞の両面から芸術の発展になくてはならない場所です。

ところが、日本の国家予算に占める文化予算の割合は、韓国の8分の1、フランスの10分の1程度にすぎません。2012年に「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」(劇場法)が制定されましたが、手厚い支援とは程遠い。多くの公立文化施設で予算が削減され、民間の劇場にはなんの支援もありません。

演劇の街・下北沢の中心的な劇場として30年以上の歴史を持つ本多劇場の大岩正弘チーフは、「照明や音響、舞台機構などの劇場の維持管理だけで年間数千万年は必要。劇場を1年間フル稼働させても収支はとんとんです」と語ります。

「公演する劇団の経営も大変ですから、なるべく安く貸し出したいけれども、これ以上安くしたら劇場の経営がなりたちません。消費税増税の影響も大きい。払っている固定資産税は莫大です。せめて税制面での優遇措置があれば助かります。政府には現状を少しでもわかってほしいですね」。

井上ひさし作品を上映するこまつ座の井上麻矢社長は、「劇場・ホールの閉鎖は、たんに一つの建物がなくなるということではなく、その街の文化、歴史を根こそぎ壊すこと。ヨーロッパでは劇場中心の街づくりが文化として根付いています。そういう思想で劇場、文化を守り育てていくことがいま必要だと思います」と指摘します。


 

日本共産党の対案

2014年総選挙政策から

●芸術団体(舞台芸術)への重点支援は、わずか31億円であり、これを最高時に戻すには36億円増ですみます。1機160億円のF35戦闘機など浪費の一部を削るだけでも、増額は可能です。
●2012年に成立した劇場法を生かし、専門家を適切に配置するとともに、施設改修や舞台機能の高度化への支援措置を設けるなど、劇場・音楽堂への国の支援を強めます。
●民間の劇場・音楽堂や映画館は、現状では商業施設として扱われ、何らの支援もありません。年間100日以上事業を行っている会館を劇場とみなして固定資産税の軽減を図るなど、積極的な支援を行います。

(「しんぶん赤旗」2015年2月20日付 寺田忠生記者記事より)