東京民研(東京の民主教育をすすめる研究会議)の共同研究集会が9月9日、「子どもの“発達の願い”にまっすぐこたえる教育」をスローガンに都内で開かれました。集会では「○○スタンダード」など統一した指導が広がる学校現場で、子どもたちに「わかる授業、楽しい学校」をつくっていく実践報告が注目を集めました。そのリポートと報告から紹介します。

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 新学期が始まった直後、2年生の猛君が、かんしゃくを起こしました。休み時間、ドッジボール遊びのルールに納得がいかない、と勝手なことを言いだしたのです。それを機に立ち歩きや算数の答えを間違い、大泣きするようになりました。
 
 1年生のときから読み書きが苦手。「死ね!」「おれなんか死んだほうがいい!」などと机を蹴飛ばし、暴力を振るう子どもでした。
 
猛君を信じよう
 担任のさゆり先生は、区立小学校の教員になってから2校目。この学校に赴任し、3年目になります。「区のスタンダード」のしばりが強くなった頃。区の最重要課題は学力向上だとし、そのためにスタンダードの徹底が求められました。
 
 スタンダードによって、教室の生活は「きまり」で充満。「みんながそろっている教室こそ荒れない」との声もありました。そんなやり方に批判的なさゆり先生は、子どもたちを毎日みている自分の感覚を大事にしたいと思いました。
 
 猛君から「先生、おれ頑張る」「勉強したい」という言葉を時々聞いていたからです。クラスのみんなも、猛君を受け入れようとしていると感じていました。
 
 さゆり先生は考えました。どうしたら猛君が「国語やったよ!」と感じるような授業ができるか。自分の意見を自由に言って表現し、クラス全員でお話の世界を楽しみたい。そうすれば猛君の意識もかわっていくのではないか―。
 
みんなが楽しく
 6月からの国語の授業は、「スイミー」。アメリカの絵本作家が書いた絵本から、載録されたお話です。
 
 ―兄弟が赤い魚なのにスイミーだけ黒い小さな魚。大きなマグロに兄弟が食べられ、助かったのは泳ぐのが早いスイミーだけ。海の生き物と出会い放浪するうちに、マグロにおびえて暮らす兄弟そっくりの赤い魚たちを見つけた。みんなを助けようと集まって大きな魚に見せ、スイミーは黒い目役になり追い出そう。
 
 さゆり先生は子どもたちへのプリントに、登場するスイミーと赤い魚たちの挿絵を描き、吹き出しをつけました。みんなは疑問に思ったことを解決しながら、吹き出しに登場人物の気持ちやセリフを書き込みました。そして、子どもたちが魚のお面をつけ発表するのです。さゆり先生は、どの子の意見も大事にしました。
 
 一人ぼっちになったスイミーがどうやって元気になったのか、スイミーの絵本を見せながら話し合ったときです。猛君は、絵から海の魚たちが仲間になれば倒せると想像したよう。「まぐろをたをてそう(倒せそう)」「こころがでんき(元気)になった」とプリントに書きました。
 
 苦手な字にも挑戦する猛君。みんなから「〝こころが〟って、すてきな言い方だね!」とほめられ、恥ずかしそうでした。大きな魚を追い出す最後の場面でも、気に入った赤い魚役を率先して演じました。
 
 子どもたちは、自分たちの発言でいっぱいになった黒板を見て、「おれたちすごい!」の声。スイミーの授業がある日を心待ちにし、「どきどきわくわくした」と言う子どももいました。
 
クラスの宝です
 さゆり先生は言います。
 「みんながスイミーの勉強をしたという感覚を味わいました。スタンダードな授業で、できたでしょうか。猛君が楽しみ、みんなとつくっていった学習そのものがクラスの宝のようです」
 
 最後にこう結びました。
 「『死にたい』と言いながら『スイミー』でマグロに食べられた赤い魚を『生きてて』と願った猛君です。これからに意味のある学習になりました」(名前は仮名)