安倍「働き方改革」廃案に長時間労働を助長する法案
遺族「さらなる過労死生む」
 労働基準法など労働法の改正案を盛り込んだ「働き方改革一括法案」(ことば)の成立を巡って大詰めを迎えています。安倍内閣は、専門職の一部を労働法の規制から除外する高度プロフェッショナル制度(高プロ)の導入を、労働団体、野党、国民の反対に耳を貸さずに急いでいます。過労死遺族を訪ねると「法案は廃案にしなければ」と、涙ながらに語ります。  (内田惠子)
 2013年の参院選の投票日の2日後に過労死したNHK記者の佐戸未和さんの母親の恵美子さん、父親の守さんは、自宅(杉並区)で未和さんの遺影を前に話します。
 未和さんは05年にNHKに入局。鹿児島局などを経て首都圏放送センターの配属に。2011年に同都庁クラブに配属されていました。
 都庁勤務3年目の2013年夏、未和さんが最後に出勤したのは7月23日。7月末から神奈川県庁クラブにキャップとして異動することとなり、この送別会に出席した後、未明に、一人暮らしをしていたアパートの自室のベッドで、携帯電話を握り締めたまま亡くなっている所が友人に発見されたのです。「手塩にかけて育てたわが子がまったく突然、旅立った。生きる希望を失った」と恵美子さんは嘆きます。
 未和さんの働き方はどうだったのでしょうか。
 労災申請にあたり遺族側がまとめた「労働時間集計表」によれば、参院選投票日の週の残業時間は週46時間にものぼります。公示の週は52時間とさらに長時間労働で、月単位では209時間の残業をしています。
 
個人事業のように
 未和さんが亡くなった後、NHKが出してきた勤務記録表を見た守さんは涙を流したと言います。メーカーに長く勤めて海外出張や駐在が多かったという守さんは、「未和はこんなに無茶な働き方をしていたのか」と言葉を詰まらせました。
 「職場の上司がきちんと労働時間の管理をして、強制的にでも休ませなければならなかったのではないでしょうか。帰れ、休めと指示が出なければ、未和が自分でやった(働いた)となるでしょう。実際、NHKは私達に『記者は時間管理ではなく個人事業主のようなものだ』と言いました。雇用されているのにそんな話があるでしょうか」(守さん)
 未和さんの上司は、「未和さんだけじゃない。当時はみんながそうだった」という言葉も投げてきました。
 「長時間労働を助長すると反対の声が多い高プロ制を含む働き方改革一括関連法案は廃案にして、与野党で合意出来る実効性のある法案から個別に成立させればよい。未和の過労死は雇用主に労働時間の客観的管理を義務付け、勤務間インターバル時間(11時間)の法的規制があれば防げたはず。実効性のある法案を早く成立させ対策を取らなければさらに過労死が生まれる」と守さんは話しました。
 
未和の分も生きて
 恵美子さんは未和さんの記憶を辿り、4年余の間、苦しみ続けています。嘘であってほしいとどこかで願っている自分がいるのです、と言う恵美子さん。そうした中で、過労死をなくすためになるならと中学校、大学などでの啓発授業に昨年末から、出かけて行くようになりました。
 「若者に生身の身体は無理をすれば壊れるのよと知ってほしくて」と恵美子さん。「亡くなった未和はご飯や使い残したエリンギをラップで小分けしたりして、忙しい勤務の中でもつましく暮らしていました。そういう意味で、未和はどこにでもいるような、あなたと同じような、普通の子でした。未和の分もあなたが生きてほしい。自分を大切にしてほしいと話しているんです」と語りました。法案について「高プロを所得の多い専門職に導入すれば、システムエンジニアやデザイナー等に対象が拡大され、いずれ営業職等へとすそ野が広がっていく」と心配します。
 
高プロは亡き夫の働き方東京の家族の会代表 中原のり子さん
高プロは亡き夫の働き方 東京の家族の会代表 中原のり子さん
 
東京過労死を考える家族の会の中原のり子代表に11日、話を聞きました。
 
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 私は99年に都内の民間病院で小児科医師をしていた夫を過労でなくしました。夫の死から15年間、過労死のない社会をつくろうと運動し、国にも過労死の責任があるなどとして対策を求めた過労死等防止対策推進法が14年にやっとできました。
 その(施行から)4日後、私は政府が高プロを検討しているという話を聞いて驚愕しました。高プロの内容は、まさに夫の働かされ方だからです。スーパー裁量労働制で、最悪の残業代ゼロ制度だと思いました。
 高プロが導入されると労働時間、残業の概念が変わっていきます。厚労相は残業時間の上限規制をすると言いますが、本質は夫のような時間管理の無い働き方を増やし、広げるところにあります。高プロが広がると過労死の労災認定もなくなっていくのではないでしょうか。
 
 労働基準法には医師や運送業、教員など残業規定の適用除外の職種があります。私の夫は適用除外職種であったために、労働時間管理がされずに馬車馬のように働かされ自死してしまいました。政府案は、専門職にもこうした残業代ゼロを広げようというものです。また、政府案では単月で100時間、平均で60時間という残業規制となっていて、連続勤務を防ぐことはできません。私は体を張ってでも廃案を訴え続けていく決意です。