金と人情、庶民の大騒動 前進座『人間万事金世中』 文明開化の風俗取り込み

 物語の中心となるのは、心優しい居候者の恵府林之助。親類が亡くなり、突然、ばく大な遺産が舞い込みます。
 強欲な伯父の辺見勢左衛門一家らが、その金に群がり、大騒動が持ち上がって…。
 『白浪五人男』『三人吉三』などの傑作で知られ、江戸歌舞伎の大作者だった黙阿弥が76歳で没したのは、明治26年(1893年)。明治に入っても創作を続け、文明開化で入ったさまざまな風俗を取りいれた散切物と呼ばれる一連の作品を残しました。
 『人間万事金世中』も散切物の一つで、イギリスのリットンの戯曲『マネー』の筋をもとにした翻案劇でもあります。
 4月12日に制作発表の会見が開かれ、演出を務める小野文隆さんは、『マネー』のタイトルを『人間万事金世中』としたネーミングセンスや、文明開化後の横浜に舞台を移した着眼点に黙阿弥の手腕を感じると紹介。「七五調など黙阿弥ならではのスタイルはありつつ、写実的に人間を描いた、近代劇の要素も見える。筋立ても仕掛けがあり、笑いあり、涙あり、ロマンスありと、純粋に楽しんでもらえる作品」と話しました。
 
若手女形が挑戦
 遺産に振り回される林之助は河原崎國太郎さん、強欲な伯父、勢左衛門を藤川矢之輔さんが演じます。
 勢左衛門の娘、勢左衛門の妻の姪という二人の娘役には、若手が挑みます。
 ヒロインとなる気立ての良い姪、おくらを演じる忠村臣弥さんは、「お金にまつわる話ですが、もう一つの大事な要素、人情の部分で、おくらは重要な役になる。若手女形が頑張る舞台に応援をよろしくお願いします」と語りました。
 おくらとは対照的な、勢左衛門のわがまま娘、おしなを演じるのは、玉浦有之祐さん。「男は顔じゃない、お金よというような意味のセリフがあったり、扉をガラッと開けたり、いままで演じた娘役とは異なる、現代の女性の感覚にも通じるような役です。演出協力の金子良次さんから、観客の男性の半分はおくら、半分はおしなに惚れるように、と言われているので、魅力的な女性になるよう演じたい」と意気込みました。
 劇団の立女形である國太郎さんは、昨年の裏長屋騒動記(山田洋次さん作)に続き、国立劇場で2年連続の男役での登場です。「上演の少ない散切物の上演で、私たちにとっても挑戦の舞台です。劇団90周年100周年で、若手の女形たちが中心になっていけるよう、指導役にもなっていきたい」と話しました。

目も耳も楽しみ
 『人間万事金世中』が初演されたのは、明治12年(1879年)の新富座。文明開化を象徴する、ガス灯や、郵便、菓子パン、こうもり傘などのアイテムを劇中に取り入れ、60日間のロングランとなるほど評判でした。
 前進座の公演でも、小道具や舞台装置などに明治の風俗を取り入れます。劇中に使う長唄も、当時のものを研究しており、目でも、耳でも楽しめる舞台です。
 勢左衛門が一見して「嫌なやつ」「金の亡者」とわかるように、眉毛などを伸ばしっぱなしにしているという矢之輔さんは、「明治150年の年でもあるので、観る人が明治維新とはなんだったのか、少し考えてもらえたらとも思います。庶民は格差に巻き込まれ、戦争に突き進んでいく日本は、あれでよかったのか。とはいえ、役としては、金がすべて。髪も眉もモジャモジャの金の亡者で演じたい」と沸かせました。
 
金と人情、庶民の大騒動 前進座『人間万事金世中』 文明開化の風俗取り込み
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
5月12日(土)~22日(火)、国立劇場大劇場