貧困の中で育つ子どもたちの不利益を軽減しようと、各地でさまざまな取り組みがはじまっています。東京都も2016年度に首都大学東京(八王子市)の「子ども・若者貧困研究センター」に委託して、「子供の生活実態調査」を行いました。センター長で貧困研究の第一人者の阿部彩さんに、東京の調査結果から見えてくる実態について聞きました。
(聞き手・内田恵子 写真・田沼洋一)
 
 ―100㌻にもなる報告書には東京の子どもの学力、居場所、生活全般が網羅されています。どんな調査でしたか。

 阿部 2016年の5月に第一次として若者(青少年とその保護者2200組を対象に、訪問して調査票を配布し、後日再訪して回収する方法で実施しました。続いて8月には小学校5年生、中学2年生、16~17歳の子どもとその保護者約2万人を対象に、郵送調査を行いました。前者の有効回答率は48%、後者は42%です。
 
 正直、そんなにびっくりするような結果ではありませんでした。予想通りともいえます。ただ、底辺の多くの子どもたちが食料を買うのにも困る、家賃や電気・ガス料金も滞納しているといった世帯にいることが赤裸々なデータとしてわかりました。
 
 このようなデータは「うちには貧困なんてない」と思っているような自治体や学校を説得する材料になります。今回の調査結果をフィードバックして、自分の地域、学校にこのような生活をしている子どもがいるんだということを、受け止めてほしいと思います。
 
 
子どもの立場で
 
 ―子どもに直接聞いているので、子どもたちが今、何に困っているのかが分かりますね。

 阿部 そうですね。センターは直接子どもを支援するわけではありませんが、できるだけ子どもの立場に立った調査になるように、工夫しています。調査とその分析を通して、子どもの声を行政や教育現場に届けたいです。
 今回の調査では
①「所得」が一定基準以下
②家計のひっ迫がある
(電気料金、家賃、食料などの7項目で支払えなかった経験が1つ以上)
③子どもの体験や所有物の欠如
(海水浴に行く、誕生日を祝うなど15項目から3つ以上の欠如)
─の3つの要素から生活困難を把握しました。
 
 そのうち、一つ以上該当している世帯を「生活困難層」としました。すると、東京では生活困難層が20%を超えることが分かりました。生活困難層と言ってもすぐに生活保護が必要というわけではありません。私たちが考える普通のことができない家庭が20%以上、あったということです。
 
 ただしこれは厚生労働省の相対的貧困率(13・6%程度)とはまったく違う定義ですので、両者の比較はできません。
 
 
体験の欠如聞き
 
 ―子どもの所有物や体験の欠如を聞くのはなぜでしょう。
 
 阿部 子どもたちの生活の実態を、子どもの立場に立って把握するためです。この手法は、相対的はく奪指標と呼ばれ、ヨーロッパ連合などでも公式に取り入れられています。
 
 今回は、保護者への調査票で、体験の欠如を聞いています。過去1年間において、海水浴に行ったり、遊園地やテーマパークに行くことがあったか。習いごとに通わせているかなど、日本社会で大多数の子どもが一般的に享受していると考えられる経験や、物品が得られているかどうかを15項目にわたって質問。その内、当てはまらない場合が3項目以上があると、体験の欠如と見ることにしました。
 
 ―子どもの貧困対策推進法が2013年に成立してから、学習支援や子ども食堂などの取り組みが広がっています。
 
 阿部 子どもの貧困問題にかかわり、発信してくれる人たちが増えました。その反面、民間の力、地域の力を当てにして、行政が動かない問題も散見されます。
 
 政府の子どもの貧困対策大綱も、実態の把握に重きを置いています。センターは都の予算で、新宿区、足立区、八王子市で若者調査をし、豊島区、墨田区、調布市、日野市で子供実態調査を展開しました。そのほかに、各自治体においても同様の調査が行われており、すでに、大田区、北区、足立区、荒川区なども独自の調査をしています。来年は世田谷区、狛江市でも予定があると聞いています。
 
 各自治体において地域の特徴や、子どもの置かれた事情、政策が異なります。実態把握をすることで、各自治体の特性に合う子どもの貧困対策を推し進めていただきたいです。
 
 
現金給付、現物も
 
 ―政府や都にはどのような対策が必要ですか。
 
 阿部 まず、母子家庭のお母さんが子どものそばにいられるような対策をしてほしいと思います。いまの政権は家族観や母親観は保守的なのに、なぜ母子世帯のお母さんにお母さん役をやらせないのか、疑問です。子どもの貧困に現金給付と現物給付は両方必要です。
 
 東京都が児童育成手当を出していることは評価します。ひとり親世帯以外の貧困世帯にも、もっと支援を拡充して欲しいです。
 たとえ税金などの負担が重くなっても、国は国民を絶対に路頭に迷わせない、本当に困った時のセーフティネットがあると信じられれば、国民も負担に納得するのではないでしょうか。 

 共産党や野党の皆さんには、社会保障を支える財源論に踏み込んでほしい。社会保障を充実しますという公約実現に向けてどうするのか。負担をだれがするのか、打ち出してほしい。
 
 私は、富裕層の増税だけでは持たないと思っています。この間、子ども手当がばらまきと攻撃されましたが、マスコミのポリティクス(政治的な背景を持つ主張)に左右されずに、国民が納得できる貧困対策と社会保障をどうすれば作れるのか、大いに議論していきましょう。